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3.そうま
結局、何度足を運んでも翔がもう一度ひなたに会いにいくことはなかった。
俺が病室に向かう姿を看護師が見ると、少し物悲しい目を向けてくる。
看護師も知っている。俺が『翔』ではないことを・・
そして、ひなたが『壮真』と呼ぶことがないことを・・
俺はそれでも満足していた。
せめて俺だけでも、愛する人の傍にいて、最期を見届ける。
できるなら、ひなたは愛に包まれたままに旅立つのだと信じてもらえるように傍に居続ける・・それが本当はひなたの望む真実ではないのかもしれないとしても・・。
それから、俺とひなたは、昔のことを思い出して話した。
ひなたの記憶はだんだんと最近のところから消えていく。
もはや立つこともできなくなり、自分でトイレにもいくことさえできない。
俺は何をしてやることもできず、ただ毎日最期へと向かうひなたを忘れぬように、目を見開いて心に刻むことしかできなかった。
そんな状況になっても、ひなたは笑顔を絶やさない。
最近ではうまく笑うこともできなくなってきていたが、一生懸命に笑顔を見せようとした。
それは眩しい太陽の下で大きく花開く向日葵のように・・
光を称え、どんな人が見ても癒されるような・・あの大きな花のように・・
そんなひなたに病魔は無慈悲に襲い掛かる。
じわじわと確実に・・手を緩めることなく、刻限に向かって責める。
それから数日して、ついにひなたは笑うことさえ奪われたのだった。
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