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4.別離の時
冬の寒さが少しずつ薄れ、桜が花を咲かせようとする季節がきた。
こんな季節に俺はひなたの棺と一緒に街中を少し巡りながら、斎場へと向かっていた。
大して良い思い出を作ることができたわけではないが、それでもこの街は俺たちの住み、運命に立ち向かい、そして悲しみを刻んだ街だ。
斎場に着くと、一陣の風が俺の頬を撫でる。
爽やかな緑の香りが鼻先をかすめていった。
知り合いが多くいるわけでもなく、家族もいないひなたは、
「お葬式はしなくていい・・」
と、この日が来る前に決めていた。
簡素なお別れ会をした後、すぐに荼毘に付すようにと遺言を残していた。
翔に最期の時が過ぎたことを告げ、ひなたを病院から連れ帰ったが、翔は部屋の鍵だけを俺に渡し、また行方をくらました。
久しぶりに帰ってきたはずのひなたの部屋は、荒れた翔の痕跡を残して、ただ物が散乱する部屋となっていた。
俺はなんとか一人で最低限の片付けを行い、ひなたを寝かせ、一晩そこで過ごした。
結局、今日斎場に向かう時間になっても、翔は帰って来なかった。
だから、俺はひなたがちゃんと天に昇るまで翔のフリをしようと・・
ひなたの最期の瞬間まで決めていた。
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