勿忘草

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涙が溢れて止まらない。 尚也の友達に片っ端から連絡しても、誰も尚也が転居した事を知らなかった。 翌日、学校でなら最後の挨拶があるかもしれないと……尚也が現れるのを待っていた。 でも、尚也はとうとう現れなかった。  担任の口から、尚也が学校を辞めた事を知らされる。 何があったの? どうして何も言わずに消えたの? なんで相談してくれなかったの? 涙が止まらなくなり、私はその場に泣き崩れた。  唯一、尚也と会える希望が絶たれた瞬間、私だけが そこに取り残されてしまった。 他の高校生男子とはちょっと違って、大人しくて 本ばかり読んでいた尚也。 男の人を好きになったのも、切ないも悲しいも 愛しいも嬉しいも楽しいも、全部全部尚也がくれた。 初めてのキスも、初めて肌を触れ合わせたのも尚也だった。 私は全部、尚也だけで出来ていた。 「みちる」 私の名前を呼んで、大きな手を差し出してくれた尚也。   「尚也……お願い。一人にしないで」  毎日、泣き暮らす私に、母親が困った顔で一枚の手紙を手渡した。 『みちるへ』 と記された文字は、見間違える筈の無い尚也の文字だった。 手紙を開けると、便箋には 『ごめん。俺のことは忘れて』 とだけ、書いてあった。 でも……その手紙には、所々、デコボコと紙が変形したようになっているのに気付く。 私はそれが、涙の跡だと直ぐに気付いた。 尚也に何があったのか? 何故、尚也の家族ごと消えたのか?……結局、何も分からなかった。
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