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尚也が消えてから五年の月日が流れ、私は社会人になった。
でも、私にとって尚也以上の人には出会えずに、月日だけが流れて行く。。
告白されて付き合ってみても、結局、尚也を思い出してダメだった。
そこで、別れが来てしまう。
街を歩いていても、何処にいても尚也を探す私が居る。
……私の『時』は、高校二年の春で止まってしまっていた。
そんなある日の事だった。
「葛原さん。この絵の女性って、葛原さんに似てない?」
そう言って、一枚の絵葉書を手渡された。
その絵には、小さな青い花が咲き乱れる花畑の真ん中で、真っ白いワンピースを着た私が笑顔で手を振っていた。
「これ! 何処で手に入れたんですか!」
叫んだ私に、絵葉書を見せてくれた職場の先輩は驚いた顔をして
「会社の近くの画廊で……。展示会してるよ」
と教えてくれた。
尚也が絵を描く所なんて見た事無いし、尚也じゃ無いのかもしれない。
単なる他人のそら似なのかもしれない。
そう考えながらも、何処か尚也であって欲しいと祈る気持ちで画廊へと足を運んだ。
それはオフィス街の片隅にある、小さな喫茶店と併設した画廊だった。
個展名は『勿忘草〜きみと過ごした日々〜』
と題され、作者が『N』とだけ書かれている。
『N』……やっぱり尚也なんじゃないのか?
もし、尚也がそこに居たら、自分がどうなるのか不安だった。
また、尚也の反応も怖かった。
尚也から拒絶されたら?
他人のフリをされたら?
湧き上がる不安を振り切り、震える手でお店のドアをゆっくりと開いた。
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