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入って直ぐに展示されていたのは花びらが舞う中、尚也の腕の中で穏やかに眠る私の姿だった
尚也だ……。
尚也と私が一緒に居る。
溢れる涙を流しながら、私はその絵の前から動けなくなってしまう。
すると
「みちるちゃん?」
驚いた女性の声が聞こえた。
振り向くと、尚也のお母さんが目を丸くして立っていた。
「おばさん! 尚也は? 尚也は居るんですか?」
叫んだ私に、おばさんは悲しそうに顔を歪めて首を横に振ると、一枚の紙を手渡した。
『若年性アルツハイマーの青年、Nが描いた世界』
と記された紙を見て、私は尚也の侵されていた病を初めて知った。
そして、その紙の作者紹介欄に
『都築尚也 享年二十一歳』
そう記された文字を見て、私は目の前が真っ暗になった。
するとおばさんはうっすらと涙を浮かべて
「今日ね、あの子の一周忌なのよ。尚也が会わせてくれたのかしらね」
小さく笑うおばさんに、私の瞳に涙が込み上げてきた。
「あの子ね……言葉を忘れても、ずっとみちるちゃんを描き続けていたのよ。
あの子の記憶は、笑顔のみちるちゃんだけなのでしょうね」
そう言われて見回した店内の絵は、どれも小さな青い花の中で笑う私の顔が描かれていた。
どの表情も生き生きとしていて、今にも語り出しそうな表現力だった。
苦笑いする私、ちょっと不貞腐れた顔をしてから微笑む私。
尚也には、私がこう見えていたんだと初めて知った。
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