ぎっくり腰物語

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厚い白い雲の上から しとしとと雨が降りだした。 私は車の窓ガラスにつく雨粒を見つめた。 綺麗だな。ただ単純にそう思った。 ゲーム機を置き、鞄の中を漁った。 持ってきていたカメラをおもむろに取り出し 窓ガラスにつく雨粒を撮ってみる。 私は駐車場の車で父を待っていた。 昨日、父は職場から家へ帰ってきて 働いていたら急に腰が痛くなったと言った。 昨日は日曜日のため病院がやっていなかった。 なので今日、整形外科へ診察を受けに来たのだ。 恐らく、ぎっくり腰だとは思うが、 もし重大な病気だったら恐ろしいので 父は早めに病院へ行く。 母が暇そうな私を見て 「文川、一緒に病院ついていってあげて。」 と言った。 私も今日は特に予定もなかった。 それに父が少し心配だったので 私も一緒に病院へ向かうことになった。 行きつけの整形外科は少し離れたとこにある。 いつも通り車で行く。 私が車を運転するのかと思ったが 父は自分で車を運転してくれた。 「とりあえず、車は運転できると思うから、  駄目だったらでいいよ。  文川が運転するのは帰りでいいよ。」 雨だったし私は車の運転が苦手なので とりあえず父に自分で病院まで行ってもらう。 私の中で、半分申し訳ない気持ちになった。 こういうときにちゃんと車を運転できれば 良かったのに。心の中で呟いた。 整形外科は混んでいたので、 私は車でゲームをして待っていた。 ゲームは楽しいがやはり退屈になる。 父からメッセージが来ていた。 「診察、時間かかるから、  文川はその辺の散歩でもしてくれば。」 私もそう思っていたのだが、雨が降っていて 傘をもっておらず仕方なく車で待機していた。 近くには特に店もなかった。 私は、ただスマホを見たり 持ってきたゲーム機で遊んでいた。 そして、一応カメラも持ってきていたので 車の窓ガラスについた雨粒を撮っていた。 一時的に雨が降りやんだ。 私は、少しだけ散歩へ出掛けることにした。 車の鍵を閉め、バッグを持ち フラフラと病院の駐車場から出てみた。 辺りは特に何もない。 目の前に広がるのは田園風景と森林。 少しだけ遠くに見える住宅地だけだった。 まさに田舎の景色だ。 私はこの一見何もない場所を歩くのが好きだ。 何か新しい発見がないかな、そう思い、 私は田んぼの方へ進んでみることにした。 信号待ちのとき、多くの車が ものすごい勢いで走っているのが分かった。 人が少ないからなのか、 それともこれが普通の速さか分からないが、 歩行者の私から見ると車の速さは驚くほど 速いものである。 実際に免許を取得して 改めて車を運転することの怖さと 責任の重さを痛感した。 本当に車を運転するときは緊張してしまうので 私は運転することが楽しいよりも怖い。 車の運転は人の命に関わることで 絶対に失敗できないことでもある。 そう考えれば、考えるほど車に乗るのが 恐ろしく緊張してしまうのだが やはり運転が上手くなるためには 車の運転を練習するしかないのだ。 車を安全に運転できる人は本当に尊敬するし 横断歩道で止まってくれる親切なドライバーの方は、やはりかっこいいと思うのだ。 そんなことを考えながら、 田んぼを歩いていると花が咲いていた。 まず見つけたのはムスカリ畑である。 紫色のグレープヒヤシンスとも教えて頂いた ブドウみたいな花がたくさん咲いていた。 そして、タンポポだ。 黄色のタンポポがたくさん咲いていて 綿毛のタンポポもあった。 野生の草や花たちは、 いつもキラキラしているように見える。 私は一人、しゃがんで花を見つめた。 誰もいないから少しだけマスクをずらし 深呼吸してみた。やはり外の空気は新鮮だ。 美しい花たちの姿をカメラに納めた。 白つめ草も見つけた。 久しぶりに見た気がする。 なぜかほとんど虫に食われていたが、 それもこの草の役割なのだろう。 白つめ草の花はどこか優しそうだった。 田園には小さな水路もあった。 私は水路を見た。 美しく透明な綺麗な水が流れている。 それをちゃんと見るためにしゃがんだ。 普通、道端にしゃがんだら目立つと思う。 だけどこの場所は本当に誰もいなくて まるで誰もこの場所が見えていないように思えた。 曇り空からも、 どこか不思議な雰囲気が漂っていた。 悲しみと喪失。そんな気分さえ感じた。 向こうの方に川のようなところがあった。 少し気になったが川のほうにバイクの人が 一人立ち止まっていたので 私はもと来た道へひきかえすことにした。 私が田園へ来る前にバイクを運転している人が一人いるのが見えたが、たぶんその人だ。 もしかしたらバイクの練習をしていたのかな。 だとしたら私は邪魔だったかもしれない。 あの人は黄昏たい気分なのかもしれない。 そんなことを想像し、元の道へ戻った。 森林も行こうと思い、 細い道を通ってみたが 行き止まりで駄目だった。 30分ほどして車へ戻った。 整形外科は混んでいたので、 まだ父から連絡もなかった。 しかし、少ししてから父が戻ってきた。 私が待ったのは2時間くらいだと思う。 結果はメッセージで聞いていて既に ぎっくり腰だということは知っていた。 「何か薬もらった?」 「湿布と痛み止め。電気みたいなの流した。」 という会話をしたと思う。 「文川、どうする。車運転する?」 と父が聞いてきたが私は曖昧に答えた。 「どっちでも。雨降ってるし...」 父も私も車の運転をどうするか迷っていた。 「いっか。雨降ってるし。パパ運転するわ。  あ、玄関に飾る花買いに行くか。」 と言って、花や野菜を買いに行った。 こうやって書くと本当に情けないのだが 家族が心配するレベルで 私は車の運転が下手なのだ。 店で野菜と花を買った。 私は2時間待っていて、 朝はご飯とみそ汁を食べたが、 とてもお腹が空いていると言った。 すると父が聞いてきた。 「どうする。何食べたい?」 「ん、いつも文川が食べたいのは  決まってるよ。  ポテトと寿司とナポリタンと鮭のおにぎり」 と答えた。途中でコンビニへよった。 父は言った。 「何か買ってくるから、待ってていいよ。」 「うん。」 たぶんコンビニのおにぎりかなと思ったのだが 今日はナポリタンを買ってきてくれた。 「あ、ナポリタンだ。」 「うん。」 「パパは?何食べるの。」 「コロッケパン」 父はコロッケが好きなのだが 私は昔から嫌というほど夕飯で毎日コロッケを 食べた記憶があるので個人的には普通だ。 私は車でナポリタンを食べた。 コンビニのナポリタンは本当に美味しいのだ。 食べ終わってから、また家へ帰る。 「どうする?こっから車運転してく?」 と仕切りに聞いていたので 恐らく父は私に車を運転してほしいのだ。 「うーん...どうしよ。」 私は迷っていた。そこは二車線道路で 私は二車線道路がとても怖い。 車線変更してくる車や途中で避けなければ ならない車がいるのでぶつかりそうで 怖かったのだ。 「ここ無理か?あ、でも大丈夫じゃない?  運転してみる?」 「うん。たまには運転しないとだし...」 とりあえず私は運転することになった。 助手席に父がいるので、無事運転はできた。 しかし、自分で判断するのが難しい。 突然道路わきから出てくる車や人や自転車が いるのでいつもハラハラしてしまう。 タイミングが難しいのだ。 もし衝突したらどうしよう。そんなことばかり考えてしまい私はノロノロと運転してしまう。 信号の変わり目も難しい。 止まるべきときと進むべきときが微妙なのだ。 急に止まると後ろに車がいた場合、ぶつかってしまうこともあるし前に無闇に進むのも危ない。 車の運転は色々と考えることが多いのだ。 タイミングと広い視野が必要だ。 とりあえず今は父がいるので 車の走るタイミングは分かるが やはりとても緊張する。 無事に家へ帰宅した。 母も兄弟もとりあえず父が重病ではなく 安心したようだった。 実は私の母は数年前から五十肩であり 父は昨日急にぎっくり腰になってしまった。 どちらもよく聞く病気だったが まさか急にくるとは思わなかった。 加齢によるものだから仕方のないことだが みんな健康でいてほしい。 そして、こうやって書くとはっきりと 分かるのだが 私は甘やかされて育った人間だ。 父母は優しすぎる人間だった。 そう思った1日だった。
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