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『虚しい』
この世でただ一人、世界一の美女だけから愛される男が、世界一以外の美女全員から愛される男に嫉妬した。
「俺もお前のようにたくさんの女性から愛されたい。所詮一人の女性に愛されるよりも多くの女性に愛された方が楽しい気がする」と言うと、
「バカだな。どうせ体は一つだけなんだから、たくさんの女性から愛されるより、世界一の美女一人から愛された方がいいに決まってるじゃないか、俺はお前が羨ましいよ」と言った。
「そんなことないだろう、お前は会社に行けば自分のことを愛してくれる女性社員がいて、取引先にもいて、飲みに行ったらそこでチヤホヤされて、家に帰っても自分を愛してくれる妻がいる。やっぱりどこにでも自分を愛してくれる美女がいるっていうのは最高だよ。俺はお前が羨ましい」と言えば、
「お前俺の立場になってみろ、そうやって周りの女の子がみんな俺を見てるんだ。俺は気が休まらないんだぞ。それよりも仕事で辛いことや苦しいことがあったときに家に帰って最高の美女から1日の疲れを労ってくれる。これこそ心が休まるってもんさ」と言った。
「夜寝るときに毎晩違う美女と一緒に寝ることができるだろう」と言うと、
「二人乗りの車には一人の女性しか乗せれないんだよ」と言う。
「誕生日はみんながお祝いしてくれるだろう」と言うと、
「もし、女性が機嫌を悪くしたらみんなに機嫌を取らないといけないんだよ」と言ってなかなか結論が出ない。
でも、こうやってビールを飲みながらそんな生産性のない話をすることがなんと楽しいことか。
またある時は、
100億の財産を持っている男にとって100万円を自由に使うのと、100万円しかない男が100万円を自由に使うのとではどちらが楽しく使えるだろうかという話になった。
「100億の財産を持っていれば100万円を失っても痛くも痒くもないから思い切って使えるだろう」と言うと、
「でも、それだけお金を持っていたら相対的に100万円の価値なんて低いから本当に欲しいものなんて買えないじゃないか。それよりも全財産が100万円で、その100万円を使った方がヒリヒリするような生きるか死ぬかの使い方ができて楽しいじゃないか」と言う。
「それじゃ思い切った使い方ができないよ、100万円で競馬の一点買いができるかい?」と言うと、
「もし買ったら、人生最高の緊張感を味わうことができるんだぜ。100億持っていたらそんな緊張感は味わえないだろう」と言って延々結論が出ない話を、スナックの女の子相手に聞いてもらい、どちらの男がより魅力的なのかと話をすることのなんと楽しいことか。
さらに、今一番食べたいものはという話になり、
「俺はうどんだな。肉うどん、ネギいっぱいいれて。甘辛い肉がうどんによくあってるのよ。またネギの香りが食欲を注いでさぁ。たまらないよね」と言うと、
「お前がうどんなら俺はね、シャケの焼き魚定食だな。卵もあったらいいなぁ、ご飯にかけて醤油は少しでいい。シャケの塩気があるから、一緒に口に放り込むんだよ。それと大根おろしがあったら最高だな。口がさっぱりして、どうだ、たまらないだろう」と言う。
「あぁ、たまらない」
「あぁ、たまらないなぁ・・・」
と、無人島に流れ着いた二人の男が想像した。
『虚しい』でした。
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