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それにしても、成瀬くんの妹さんが結婚すると聞いて、自分も結婚してもおかしくない年齢になっていることを改めて自覚してしまった。
社会人になって四年にもなるのだから、今さら自覚するのもおかしな話なのだが。
でも今日は、それだけでは収まらなかったのだ。
わたしが結婚してもおかしくないということは……つまり、彼も、結婚している可能性が高くなっているということなのだと、急にそのことが頭のど真ん中に落ちてきてしまった。
そしてその事実に、胸にひび割れが入ったように痛んだ。
どうしてだろう、今日は、ひどく彼のことを思い返してしまう日だ。
どちらにせよ、とっくに振られているわたしには、傷付く資格もないくせに。
「結婚か……」
わたしも、いつかは彼以外の人と結婚するのだろうか。
彼と別れてから、男の人とデートらしきものをしたことはあった。
でも、そこから先には、どうしても進めなかったのだ。
理由はもちろん、彼である。
彼のことをまだ過去にはできず、デート中なのに彼のことをしきりに思い出したり、目の前の人を彼と比べてしまったり……そんなことが何度も続いたら、もう、別の誰かと付き合うなんて不可能に感じられた。
本音を言えば、わたしだって、結婚に憧れがある。できることならば彼のことを忘れて、大切に思える人と結婚したい。
そう思ってはいても、四年も経った今でもまだ彼のことを好きで好きで仕方ないのだから、もう、どうしようもないのだ。
こんなに好きになれる人と、この先巡り会えるのだろうか……
どんどん育っていくおぼろげな不安を宥めながら、わたしは、成瀬くんが戻ってくるのを待っていた。
しばらくすると、小走りでこちらに来る成瀬くんが見えたので、わたしは腰を浮かせて成瀬くんに手を振ってみせた。
急がなくていいという思いを込めて。
こんなに早く戻ってきたということは、妹さんはさほど重症だったわけではなさそうだ。
ひとまずホッとして、肩からは力が抜けた。
ところが、
「―――え?」
成瀬くんに向けていたその手を、背後から近付いてきた何者かに、ぎゅっと握られてしまったのだった。
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