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「俺が、何?」
枕をグイッと横に押しやり、続きを促す友樹。
わたしはほんの僅かな逡巡を越え、
「………なんでもない」
と答えた。めいいっぱいの満ちた笑顔で。
「なんだよそれ、教えてよ」
不満を隠さない友樹にも、わたしの心は動かない。
「いいじゃない。わたしだけの秘密」
「でも俺のことなんだろ?だったら教えてよ」
「だーめ。秘密秘密秘密!例え世界が逆さまになっても、友樹には教えてあげません!」
「なんだよ。ケチ。まあいいけど。でもそんなケチな彼女には―――」
友樹は拗ねるように唇を尖らせたかと思いきや、とたんにグイッとわたしの肩を抱き込み、体勢を逆さまにした。
トスッと柔らかくベッドに押し倒されてしまったわたしには、もう、幸せしか降ってこない。
そしてその幸せの筆頭で友樹のキスが落ちてくると、目を閉じて、甘やかな時間を追い求めた。
『でも、あんな感じ悪い人達にもちゃんと注意できるなんて、かっこいいね』
『かっ……、かっこいいなんて、そんなこと……、絶対、そんなこと、ない、から。そんなこと……例えば世界が逆さまになっもそんなことないから!』
『本当ですか?彼女さんとかと待ち合わせしてたんじゃないですか?』
『まさか。彼女なんていませんから』
『本当に?すごくモテそうなのに…』
『モテるわけないですよ。そんなの、例え世界が逆さまになってもあり得ない話ですよ』
深くなっていく恋人の時間のはじまりに蘇るのは、はじめて出会った時と、大学で再会した時の光景、そして友樹の口癖だった。
それは、彼が、わたしの世界を変えてくれたのだという、大切な大切な、宝物のような思い出達。
今、お互いがお互いに触れるぬくもりは、四年前よりももっと愛おしい。
そのぬくもりは、もう間違わないようにと、わたし達に教えてくれてるようだった。
もうわたし達は間違わない。
少なくともわたしは、また友樹が道を狭めるような選択をしたとしても、簡単に頷くことはない。
きっと、昨日までの四年間が、わたし達を変えたのだと思う。
今度はもう、お互いの手を離さないと。
何があっても。
どんなことが起こったとしても。
そう、例えば、世界が逆さまになったとしても――――――
例えば世界が逆さまになっても(完)
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