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「それで今どこにいるんだ?……ホテルの部屋?取ってもらったのか?………ああ、分かった。それまで待てるか?」
何やらただごとではなさそうな雰囲気に、わたしの気も急いてしまう。
成瀬くんは通話を終えると、崩れた顔色でわたしに説明してくれた。
「妹が打ち合わせ中に体調を崩したらしい。今日は一人での打ち合わせだったから、たまたま近くにいる俺に電話してきたみたいなんだけど、ちょっと行ってきていいかな?」
「もちろん。早く行ってあげて?」
「悪い。様子を見たら戻ってくるから、待っててくれる?」
「わたしのことは気にしないでいいから、早く行って」
「ありがとう」
成瀬くんはそう告げるとすぐに妹さんのもとに向かったのだった。
迷惑にならない程度の駆け足で去っていく成瀬くんに、わたしの心配も膨らんでしまう。
「たいしたことないといいんだけど……」
成瀬くんの姿が見えなくなってから、ひとり言としてこぼれていた。
詳しい状況は分からないけれど、病院に運ばれていないことを考えると、少し休めば回復するのだろうか。
もしそうなら、成瀬くんはそのまま妹さんと一緒に帰宅するだろう。
その時はここの支払いはわたしが引き受けて、二人をタクシーに……そんなことを考えていた。
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