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《そんなのすぐ分かるよ。だって相沢、ずっと南條の口癖使ってるんだから。”例え世界が逆さまになっても” って》
成瀬の明朗な回答に、俺達は思わず顔を見合わせていた。
互いに何とも言えない表情で、でも胸の中では甘ったるい刺激にくすぐられながら。
《”天と地がひっくり返っても” じゃなくて、”例えば世界が逆さまになっても”。南條、中学の頃からよく言ってたよな》
まるで一方的にノスタルジーの入り口を見つけたような話し方にも嫌な感じがしなかったのは、成瀬の人柄も影響してるのだろう。
人によっては、それが蒸し返されたくない過去だった場合、ただただ嫌悪感しか抱かないこともあるだろうに。
実際俺は、自ら率先して中学高校時代の思い出話を披露するタイプではないし、若菜にだってあまり聞かせたこともないけれど、 成瀬となら、思い出話にも多少の花を咲かせることができそうだと思った。
成瀬なら、きっとネガティブな色の種を撒くことはないだろうと、絶妙の信頼感があるのかもしれない。
「………よく覚えてたな」
自分でも自覚のあった口癖。
原因は幼少時に読んだ絵本のような気もするが、今となっては定かではない。
だが三つ子の魂は十代、二十代とバリバリの現役で。
自分改革後の高校生活後半になると、砕けた会話ができる同級生も増えてきて、彼らからこの口癖について問われることも何度かあったのは事実だ。
若菜にだって、大学で再会したときに ”ユニーク” と評されたりもした。
誰かに何かを言われるその都度、自分なりに、やや悪目立ちするその癖を正そうと試みるものの、件の三つ子の魂が全力で邪魔をしてきたのだった。
《印象深かったからな。でもそのおかげで、相沢と南條が上手くいってるのが分かったんだから》
「じゃあ、成瀬くんはわたしとはじめて会った時から、ずっと友樹と付き合ってるって思ってたの?」
《そうだよ?だって相沢は今日も言ってただろ?”例え世界が逆さまになっても”って》
「え?言ったかな……」
ちらりと俺を窺う若菜。わずかに焦り気味な反応が可愛くてたまらない。
《電車の中で言ってたよ。でも……、さっきからすごく驚いてるけど、もしかして俺の勘違いだった?二人は付き合ってないの?》
「いや、間違いない。俺達付き合ってるから。大学のときから、ずっと」
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