口癖

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「いや、間違いない。俺達付き合ってるから。大学のときから、ずっと」 友樹の間髪入れない返答が、鋭く電話の向こうに届く。 それは牽制のように。 だけど受け取った成瀬くんの方は、いたって平和的なものだった。 《そうだろ?だってもし別れたりしてたら、元恋人の口癖なんか使いたくないもんな》 「え……?」 自分のことを言われたようで戸惑うわたしに、成瀬くんがハハッと笑って付け加えた。 《まあ、もし別れてもよっぽど好きだったら使い続けるかもしれないけど》 よっぽど好きだった………それは紛うことなき真実だ。 この四年間、一度だって友樹以外の人に気持ちを傾けたことはないのだから。 そう思いつつ、電話の相手である成瀬くんに向けては、チクリと胸を刺すものがあった。 友樹から明かされた過去のあれこれが頭をよぎったせいだ。 でもだからと言ってわたしが成瀬くんに対してどうにかできることでもなく、胸の痛みには目を瞑るしかなかった。 《でも、思った通り、二人がずっと付き合ってたんだと思うと、俺も嬉しいよ》 「………なんで嬉しいなんて思うんだ?」 至極当然な疑問を返したのは友樹だ。 だって友樹の話では、成瀬くんと友樹は……つまり、恋敵的な位置関係だったはずなのに。 ……わたしが言うのもどうかと思うけど、でも、そういうことなのに、どうして成瀬くんはわたし達のことを ”嬉しい” なんて言えるのだろう。 すると成瀬くんは、それこそ至極当然とばかりに断言した。 《だって、友達じゃないか》 「え……」 《友達の幸せは自分も嬉しいものだろう?》
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