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《友達の幸せは自分も嬉しいものだろう?》
俺にとっては少々厄介な元同級生だった成瀬が、事もなく友達という言葉を放った。
輝かしい高校時代を経験していない俺にとって、成瀬は正反対の存在だった。
常にクラスの真ん中にいる人気者タイプで、明るく、前向き。
だから俺はあのとき、とっさに成瀬の名前を借りたのだから。
そんな成瀬に友達認定されていたことに、少なくはない驚きと、心をくすぐられるような痺れを感じていた。
そして、そういう発言が出てくるということは、成瀬の中で若菜の存在が必要以上には大きくもなっていないのだろうと、また別の意味で愁眉を開く俺がいた。
「成瀬くんは友達思いなんだね」
若菜が俺の代わりに頷いてくれたけれど、その顔つきはどこか満足そうだった。
《もちろん相沢のことも大切な友達だよ》
「ありがとう。わたしも成瀬くんのことは大切な仕事仲間だと思ってる。それから、同期で、友達」
《仕事仲間か……》
成瀬はしみじみと呟いてから、ふと声を変えた。
《ああ、そうそう、仕事で思い出した。あの後は俺の方でチェックしておいたから》
「ごめんね……全部任せちゃったんだね。ありがとう。ところで妹さんは大丈夫だったの?」
《うん、少し休んだら良くなったよ。でもそういうわけだから、相沢はもうそのまま帰っていいよ。俺ももう帰ってるところだし。それを伝えたくて電話したんだ》
成瀬の話で、さっき一緒だった女性が成瀬の妹だったことを知る。
勘違いして先走ってしまったのかと恥じる一方では、それがなければ今に至ってないのだと、その偶然にも感謝した。
「ありがとう。ごめんね」
申し訳ないと、スマホに向かって頭を下げた若菜の隣で、俺も若菜以上に深く頭を下げた。
「成瀬。迷惑かけてすまなかった」
テレビ電話ではないのでこちらの様子は成瀬には見えるはずないのに、向こうからは《いいよいいよ。そんなに真剣に謝らないでよ》と茶化すような温度で返ってくる。
《あの南條の切羽詰まった様子からして、今日は久しぶりのデートだったんじゃないの?》
「いや、それは……」
「実はそうなの。今日はめちゃくちゃ久しぶりに会えたの」
言い惑った俺を遮って、若菜は成瀬と温度を合わせて言った。
まるきりの嘘ではない返事を。
そしてそれを聞いた成瀬は、《そっか、それはよかった》先ほどと同様に、しみじみと、気持ちの奥で受け取るように深く応えた。
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