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「もう離さない。もう一生、離すつもりはないから」
真摯な決意に、体の芯からゾワリと波打つ感情があった。
それは、わたしに向けられたものではなかったのに。
なのに友樹のまっすぐな視線が、通話越しの成瀬くんではなく、わたしだけをしっかり捕らえていたから。
《惚気るなあ……》
成瀬くんはクスクスと呆れ笑いをこぼしてから、
《じゃあ、また今度はちゃんと会おうよ。南條は俺の今の連絡先知らないだろうから、相沢から番号聞いて、都合のいい日を教えてよ》
次の約束を言い残すと、用は済んだとばかりにさっさと通話を切ったのだった。
通話が終わったスマホには、またあの青すぎる青い空が戻ってくる。
わたし達の青い空だ。
けれどその青色に目を逸らすことはなかった。
なぜなら、友樹の手が、スマホを持つわたしの手首をしっかり握っていたから。
「………今言ったこと、本気だから」
ぶつかる眼差しの強さに、思わず怯んでしまいそうになる。
ここまで真剣な物言いをする友樹に、わたしは今までに出会っていただろうか。
もう一生、離すつもりはない――――
かつて恋人として過ごした時間の中で、ここまで熱の高い言葉を聞いたことがあっただろうか。
友樹の中にこんなにも激しい一面があるのだと、今日は散々見せつけられてきた。
そしてこの一言は、最後のダメ押しとばかりにわたしを甘やかな渦に引きずり込んでしまうのだ。
――――もちろん、わたしだって、離すつもりなんかない。
やっと本当の意味で繋がれたこの大好きな人の手を、みすみす離すなんてあり得ない。
だからその想いを伝えるために、わたしは握られた手はそのままにして、スッと下から友樹の唇を奪った。
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