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「―――っ!」
突然のキスに、友樹はとっさにわたしの腕を放した。
でもわたしはキスをやめない。
「わたしだって、離さないから……」
想いがキスの隙間からこぼれ落ちていくと、とたんに、主導権は友樹に優しく奪われてしまう。
四年前、どうして別れを告げられたのか、どうして別れを受け入れられたのかが理解できないほどに、今、わたし達はわたし達を想っている。
互いのことを思いやるあまり道を狭めていたのだと、互いを想う強さばかりが先走って弱気を生んでしまっていたのだと、今ならそう気付けるけれど、きっと、あの頃のわたし達にはそんな余裕も勇気も備わっていなかった。
だから友樹は別れを選んで、わたしは友樹の別れに頷いて……
もう二度と、絶対に、あんなことは繰り返さない。繰り返させない。
そう固く誓ったのは、きっとわたしだけじゃない。
その証拠に、友樹からの口づけからはあの頃とは比べ物にならないほどの何かを感じるのだから。
それが何かは分からないけれど、あたたかくて、これからの道を照らしてくれるような何か……
「………なに?」
ふと、キスを中断した友樹が、怪訝そうに訊いてくる。
「え?」
「今、笑っただろ?」
「わたしが?笑った?」
指摘されて、無意識のうちに笑い息を漏らしていたことに気付いた。
友樹はほんの少しの憂いを乗せて、わたしを見つめる。
その頼りなさそうに揺れる瞳に、わたしは最大限の愛情をこめて答えた。
「それは、たぶん……友樹がかっこ良過ぎるせいだよ」
「は?」
「だって、キスひとつとっても、昔とちょっと違ってない?」
「なんだよそれ」
意味が分からないと顔を離した友樹。
照れたように視線を泳がすその表情からは、ふわりと憂い色が消え去って、だからわたしは、恋人同士がじゃれつくような浮き立った調子で友樹に飛びかかった。
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