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嘘の伝播
「ねぇ、あんたはどう思います? 俺の頭が可笑しいって思うかい?」
あぁ、今日は何て厄日なんだ。
久しぶりに顔なじみの店で酒を飲んで、気持ち良く眠りにつきたかっただけだと言うのに。
部下との折り合いが悪く、上司にちくりと能力不足を指摘されて荒んだ心を、ほんの少し癒してくれるなら。それが酒であっても愚痴を聞いてくれる店員でもカウンターで隣合った女の子でも何でも良かったのに。
自分の方がくたびれた年上の男に絡まれ、くだを巻かれているだなんて。
けれど他人に対して強くハッキリした態度を取れないヘタレな自分は、愛想笑いをして男の話を聞いている他なかった。
こんな日に限って、カウンターの店員は他のお一人様の客の相手をしていて助け船を出してくれない。
俺は絶望的な気持ちで祈っていた。早く終わってくれ、と。
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