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近くに行っても印象は何も変わらなかった。
綺麗に整った顔はツルリとして毛穴の一つも見つからない。蠟がかった肌はまっ白く血の色も感じられなかった。
精巧な作り物のようだった。
と、長いまつげが影を落とす。
瞬きを一つ。
(あ、生きてる)
視線が外せなくなった。
動きのすべてを見ていたいと思わせる雰囲気に飲み込まれている。ふいに視線がかみ合った。
突然のことで動揺しぎくしゃくとした動きをするぼくを不思議そうに見つめたが、すぐに興味を失ったようにそらされた。
小さな失望が胸を痛めた。
ぼくはこんなにも惹かれているというのに。
「あの、」と声が出た。
何を言うつもりなのか、自分でも驚いた。一度開いた口は次の言葉を浮かべる。
「いいお天気ですね」
馬鹿か。
なんて意味のないことを言っているんだ。
だけどその人はゆっくりとぼくを見て「そうですね」と答えた。
無視されると思っていたから浮足立って会話を続けたくなった。
「何を見ているんですか」
それに対する答えは沈黙だった。
突然知らない男に声をかけられ警戒されても仕方がないだろう。
「あの、すみません、話しかけて」
不審者だと通報される前に姿を消そうとしたら「絵」と答えが届いた。
「絵のイメージを」
「絵、ですか?」
だけどその人の手元にはスケッチブックも鉛筆の類も何もなかった。何にどうやって描こうとしているのか。わからず再び問いかける。
「イメージとは」
「頭の中に」
ポツリと単語だけが返ってくる不自由な会話だけどぼくにとっては嬉しい誤算だった。
見れば見るほど美しい人だった。
声も低く落ち着いている。
真っ白いシャツと黒の細身のパンツは確かに芸術家っぽくもあった。とてもよく似合っている。
「絵を描くんですか」
続けた問いには再び無言が返ってきた。
「イメージわいてきましたか?」
「いいえ」
「そうですか」
ぼくはその隣のベンチに腰を下ろした。
二人の間を子どもたちの笑い声が通り過ぎていく。
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