花ひらくとき

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 テレビや雑誌でもしばらく騒がれ、だけどあの人はどこにいても公園と同じ空気を纏い、静かに存在していた。  驕ることもはしゃぐこともなく淡々とインタビューに答えている。  ぼくが話しかけた時と同じように答えているのだろうか。時には無言で時にはこぼすように。  想像すると不思議な感じがした。  何もわからないあの人のことをわかっていることが。  あれだけ長く同じ時間を過ごしていたというのにまったく縮まらなかった距離。だけどそれは間違いだったのかもしれない。  あの人の存在が今のぼくに何かしらの影響を与えている。  ニュースは次から次へと飽きることなく新しいネタへと移り変わっていく。そしていつしかあの人の記事が世間に出てくることはなくなっていた。    ぼくの公園通いはそれからも続いていた。  あの人のいないベンチはいつも空っぽで風がそよそよと通り過ぎていく。  ここにあんな有名な人がいたなんて誰も気がつかないだろう。  ぼくだけが知っていたあの時間は遠い過去へと流れていく。  季節が一周してあの人と初めて出会ったころと同じ風が吹いた。桜の花びらがヒラヒラと舞い池に模様を浮かべている。  いつものようにベンチへといくと先客がいた。  真っ白いシャツの真っすぐな背筋。  もしかしてと慌てて駆け寄ると、あの日と同じようにあの人がベンチに腰かけていた。  何一つ変わらず、季節が動いたことを感じさせない佇まい。  いままでもここにいましたよと言われれば、そうだったね、と答えてしまうくらい当たり前のようにベンチに座っている。 「お久しぶりですね」と声をかけるとゆっくりと振り向きぼくを認めると、こくりと頷いた。 「お元気でしたか」
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