チャンス

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店の他の女の子たちにいろいろアドバイスをしてもらってはいるのだがなかなか成果は上がらず、ここ2、3日は目に余るミスが続いたため、厳しいかもしれないがフロアから一旦外すことにしたのだという。 そこまで聞き俺は激しく首を傾げてしまう。それを俺に話してどうしろって言うんだよ、と。 「―――店の子たちにはもしかしたら言いにくいことだったり、聞きにくいことだったりする悩みかもしれないでしょう?何か心の中で燻っているもやもや・・そうねぇ例えば・・・恋とか」 と、唐突にママが思いもよらないことを言うから、俺は丁度飲み込みかけていたビールを危うく噴出してしまいそうになる。 「こ、こい・・ですか?」 ・・・それって、俺にとって超絶に大ピンチなんじゃないか?ロックオンした相手にもしかしたら誰か好きなヤツがいて、しかもその悩みを俺に解決しろと? おいおい、冗談じゃない。俺はそんなに心が広くないし、好きな子が自分以外の相手と幸せになっちゃうとか絶対に嫌だ。器が小さいと思われようが、男らしくないと思われようが知ったこっちゃない! 衝撃的過ぎて呆然と絶句した俺を、どこかからかうような表情でママはのんびりとこう言った。 「――――恋って楽しいものじゃない?でも今のキリちゃんは全然楽しめてない。逆にとても苦しそうで・・・正直見ていられないの。あの子たぶん・・・初めて人を好きになったんじゃないかしら。だから戸惑っているのね、きっと」 「・・・そうだとしても・・・なんで俺なんですか。ここなら女の子ばっかりなんだからそっちの方が気持ちわかるじゃん・・・」 若干不貞腐れ気味に俺は聞き返し、ママはそんな俺を面白そうに見る。 「―――あなたもわかりやすいわね、本当に。だからこそ、マチ君じゃなきゃダメだと私は思うのよ」 ママは何をもってそう思うのかは教えてくれなかったけど、絶対的な確信を持ってそう言っているのは俺にも伝わってくる。腹を括るしかないのか・・と俺は半ば諦めの境地でひとつ頷き、間もなく戻るだろうキリちゃんを複雑な気持ちのまま待った。
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