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「・・・はぁ。まぁ・・・友達、・・かな」
どうにも複雑な感情が先立って、歯切れの悪い答えになってしまう。つい先刻までいた『シルク』でのあれこれを思い出して再びどんよりした気分になり、どうにか浮かべていた笑みを保てなくなりかけた時―――。
「――アハハ!美律たんのオトモダチ発見~」・・と、すぐ隣の席で接客をしていたホステスのひとりがくるりと振り向き、素っ頓狂な声を上げた。
俺は驚いて目を丸くしてその子を見て、それから更に驚くことになる。なぜならちょっと予想しない展開で周囲が盛り上がってしまったから。だからかな。いつまでも引き摺っていた負の感情がふっと頭から離れた。
「美律の友達か!ならお前はいいやつだな」
「美律君の友達になれるなんて、君はラッキーだね」
「あの子はこの街の宝だ。これからも仲良くしてやってくれよ」
「美律さんは私たちのアイドルなのよ。意地悪したら許さないから!」
・・・等々。
美律ちゃんの名を出した途端客もホステスも関係なく俺を囲み、初来店記念だとか美律に乾杯だとか言って次々に酒やオードブルが運ばれてきて、即席の宴会(のようなもの)が始まる。
最初こそ勢いに押されていた俺だったが、元々騒がしい雰囲気は嫌いじゃない。・・・というか、それを仕事としているのだから慣れていると言った方がいいのかもしれないが、いずれ落ち込んでいたことも忘れるくらい、いつの間にかその明るい雰囲気に馴染んでいた。
「―――そう。マチ君は『響』で働いてるの。それなら伴に伝えておいてちょうだい。“アンタいつまで私を待たせる気なの。早く顔見せに来ないとこっちから殴り込みに行くわよ”って」
俺が響でホストをしていると麗子ママに話すと、彼女は美律ちゃんの名を出した時と同じような優しい笑みを浮かべた。サラッと聞いたところによると、元々伴さんはこの街で・・というか、『シルク』で働いていたとのことで、そこで俺はようやく伴さんとシルクの関わりの一端を知ることとなった。
・・・が、その話を聞いた辺りの俺はもう相当酔いが回り気分も上向いていたから、美律ちゃんと伴さんの濃密な雰囲気の事などとっくに思考の中からなくなっていたのだが。
「あー・・・。久々にこういう店に来たけど・・・、堅苦しくなくていい店ですねー。ママは綺麗だし、女の子たちも気さくだし、お客さんも気取ってない。――――俺、この店好きだなぁ・・・」
思ったままを口にして、店内の心地好いざわめきに視線を巡らし、俺は自分でも呆れるくらいの上機嫌で口元を緩ます。麗子ママが、「あら嬉しい。ステキなお客様がまた一人増えたわ」とクスクス笑い、丁度灰皿を替えに来た女の子にねぇキリちゃん、と声をかけ、顔を覚えさせるためだろう、俺の隣に座らせた。
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