絶望的な一目惚れ

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「―――――今日ね、すごくステキな人に会ったんだよ。町田さん・・・マチさんっていうの・・・」 隣にいる時は声に出して呼ぶことのできなかった名前を口にしてみて、私は堪らなく幸せな気分になって、そして堪らなく絶望的な気分にもなった。こんな気持ちになるのは生まれて初めてのこと。 20歳の私は恋愛というものをまともに経験したことがない。たった一度だけ疑似体験はしたけれど、それ自体に楽しい思い出は何一つなかったから、私は恋をするという行為に何の希望も期待も持っていなかったし、一目惚れや雷に打たれたように激しい恋に落ちるなんて自分には関係のない話だと思っていた。 それに・・・。そもそも恋なんて不安定なものに現を抜かしている余裕が私にはないから。 けれどそんな抑えつけていただけの感情は、今日で脆くも崩れ去ってしまった。 はっきり言い切れる。 あれだけ否定していた一目惚れを、雷に打たれたような衝撃的な恋心を・・・。 私は今日、初めて知った。 本音を言うとこんな気持ちを知れたことは嬉しい。だけど・・・それよりもさらに大きな絶望感が私を襲う。 この気持ちは伝えられない。伝えてはいけない。 初めて好きになってしまった彼には、私の秘密を打ち明けることなど到底できない。 暗い部屋に膝を抱え座り込み、私は・・・声も出さず静かに涙を流し続けた。 初めて知ったこの気持ちを、誰に知られることもなく葬らなければならない。 悔しくて、悲しくて、切なくて、苦しい。 どんなに泣いても、どんなに辛くても。 私は、私の決めた生き方を崩せない。 私は、自分を傷つけたくない。 私は、彼に嫌われたくない。 「―――――マチさん・・・マチさん・・・ッ」 もう一度声に出して彼の名前を呼ぶ。彼を想って泣くのはこれで最後にしようと心に誓って。 次に会った時には大切なお客様として笑顔でお迎えできるように。 それが、彼のためで、――――――私自身を守るためなのだから。
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