慰めてくれないの?

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慰めてくれないの?

結果から言えば・・・。 マチさんの両親との対面は、どちらもうまくは行かなかった。 最初に行ったのは養父の方。その人は開口一番、 「籍も抜けてもうまるっきり他人なんだから俺には係らないでくれ。お前の母親に子供には一切気を向けなくてもいいから一緒になってくれと言われて籍を入れただけで、始めからお前を家族と思っていなかった」 と、捲くし立てるように言い、頭を下げて詫びたマチさんに対しあまりにも酷すぎる言葉を叩きつけた。 それなのにマチさんは、なんてことを言うのと怒りで震えた私の肩を宥めるように抱き、とても落ち着いた声で「そうか」と呟く。そして、 「――――もう会いに来たりはしない。ただ一言謝りたかっただけだ。・・・今の俺は何も恨んじゃいないし、あんたを責めたくてわざわざ来たわけじゃない。―――――・・・あれだけ刺しても死ななかったんだ。長生きできるよ」 過去、自分の養父だったひとをまっすぐに見て、マチさんはどこか晴れやかな声でそう言った。 見栄や虚勢の一切感じられないとても正直な言葉に、私は堪らず口元を覆う。健気というか、意地らしいというか・・・、ああ、今彼は、この人を許して、そして、自分の罪も赦したんだと、はっきりとそう思えて、抑えられない涙を静かに流した。 帰り際、『・・・あれを虐待とは、当時は思っていなかった』と何か探るようなおどおどした声が私たちの背にかけられる。彼は喉の奥を鳴らすように短く笑い、振り向くことなく「世間体が大事なのはよ~ッくわかってる。・・訴えたりしねぇから安心してよ」とからかうような口調で言って、私の手を引き歩き出す。 「――――あんなこと言うなんて・・・、酷すぎる」 「そうか?俺は予想通りだったな。逆に帰り際の言葉の方が驚いた。あれって、今はそれなりに気にしてるってことだろ?悪いとか後悔してるとか、たぶんそういう感情とは違うだろうけどな」 やっぱり辛いよね、と悲しくなって見上げた彼の表情は、私の想像しているものとは全く違った。 「ヘコんでると思っただろ?」、彼はニッと笑って私を見つめ、それから繋いでいた手を離してより密着させるように肩を抱いて、空を見上げて大きく息を吸った。 「――――全部終わったら・・・」 きっとヘコむだろうからその時は桐、慰めて。 隠し事を打ち明けるようにマチさんは私の耳元でそう囁いて、次の目的地であるお母さんのいる施設へと向かった。 ――――たぶんこの時、彼は私が想像するよりもっと、最悪の状態を予想していたんだろう。鈍い私は全てが終わってから気付く事となるのだけれど。
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