魔法

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魔法

外で待っていた俺の腕の中に戻ってきた桐は予想外の笑顔で、 そして、「帰ろうか」と言い、俺の手を強く握り歩き出し、碌な会話もしないまま俺の部屋へ戻った。 二人とも休みを取っていたから、この後の予定はもうない。 桐は泊まっていくつもりでいるようだし、当然俺も大歓迎。飯を食って風呂に入り、他愛のない会話をしながら過ごして当たり前のように同じベッドに入り、どちらからともなく身を寄せ合う。 しん、とした静寂の中、今日のことを何も話そうとしない桐に違和感を覚える。―――それは今に始まったことではなく、苦い再会を終えてからずっと感じていた。 なぜ笑顔だったのかとか、今いったいどんなことを思っているんだろうかとか。 とにかくそんなことを考え出したら眠りの気配は遠退いて、しゃっきりと目がさえてしまう。 左腕の中で規則的な呼吸を繰り返す桐は、もう眠ってしまっているのだろうか・・・。 何か話したいのに、何から話せばいいかわからず、結局開きかけた唇を再び結んだ。 あの人たちに会いに行って得た結果に傷ついていないわけじゃない。 どんなに努力しても足掻いても、あの人たちが俺を心の底から受け入れてくれることはもうないのだろうとはっきり現実を突きつけられたのだから、それなりにショックはある。 だがそれはあくまでも、“やっぱ上手くいくわけないよなぁ・・”というほろ苦い笑みが浮かぶ程度のもの。俺の心の大半を占めていたのは、これで心残りなく前に進める、桐と新しい一歩を踏み出せる――――そんな清々しさ。そしてそう思えたのはすべて桐のおかげ。 悲しいとか苦しいとか、そういう負の感情は桐が俺の代わりに流してくれた涙で全部浄化されて、今俺の心にあるのはたったひとつだけ。 何を失っても、桐だけは絶対に離さない。―――――ただ、それだけ。 でも。桐はどうだろう。 俺のためにと走り回って努力してくれた結果に、きっと傷ついているはずだ。 そしてそのことを口にすると俺をもっと傷つけるとか思っているかもしれない。 桐は優しいから、間違いなく俺以上に傷ついているだろう。 暗闇の中でも感じる甘く温かな香りと気配。幾分全身が緊張に強張っているように感じる。――――どうやら桐もまだ眠れずにいるようだ。 今、この雰囲気の中で口にするのが正しいのか、実は自分でもよくわからない。けれど、今じゃなきゃいけないような気がするのも確かで。 数度呼吸を整え僅かに身を起こし、ベッドサイドのルームランプを少し絞った明るさで灯す。
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