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魔法みたいに、俺の忘れていた傷や染み付いて消えなかった汚れを、一瞬でゼロにしてくれる。
「マチさんが、私の言葉で幸せを感じてくれるなら、私はいくらでもあなたに魔法をかけてあげる」
まっすぐで何の迷いもくもりもない桐のまなざしは、これからの俺の生き方に希望と安らぎを与えてくれているよう。
俺はもう二度と、過ちは犯さない。
桐を悲しませたくないから。
桐を一人にしたくないから。
桐に笑顔でいてほしいから。
視線を逸らさぬまま唇を桐のそれに近づけ、触れるギリギリのところで止め小さく囁く。
「――――幸せにするって、約束する」
きゅっと回された細くしなやかな桐の手が、包むように・・縋るように、俺の背を強く抱きしめた。
「――――ん・・・。他の誰よりも私が、マチさんを愛して、幸せを感じさせてあげたい・・・ッ」
桐の言葉の終わりと同時に、俺は微かに震える柔らかな唇を噛み付くように貪った。
舌を絡めて吸いつき甘噛みし、歯列をなぞり滑る粘膜を抉るように舐って、滴り溢れる甘く温かな唾液を啜って飲み込み、そしてその甘美さに歓喜し喉を鳴らす。
「・・ッ、名前、呼んで」
口付けの息継ぎの僅かな合間、俺は半ば呻くように告げる。
桐は苦しげに呼吸を乱し眉根を寄せて、「・・え?」と、閉じていた瞼をそろりと上げた。
「やすはる」短く告げて、再び甘い唇を味わう。
「・・や、すはる、さん・・?」困惑気味に桐が言い、俺はその優しい声音に頬を緩めつつ首を緩く振る。
「さん、いらね」
「でも・・・」
「呼び捨てのが、近い感じ、するでしょ」
「・・・え・・と・・・」
「やすはる。―――ほら、呼んで」
「ゃ・・・やす、はる・・・、―――ッん」
“る”で窄まった唇の形にさえ愛しさがこみ上げ、その形が崩れるよりも先にそこを貪った。
桐の喉奥からくぐもった喘ぎが振動と共に俺の肌に伝わって、ぞくりと全身総毛立つ。
「このまま、抱きたい」
口の周りを濡らす唾液の筋を追うように頬から耳へと唇を滑らせ、耳たぶを甘噛みしながらそっと囁くと、桐の体は大げさなほどびくりと震えた。
だめ?――と甘えるように尋ねてみると、ダメじゃない、とか細い吐息が俺の髪を優しく揺らす。
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