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そうして果ての見えない欲求がようやく満たされたのは、暗かった夜空に夜明けの気配が混ざり合った、まさに桐の言っていた、“暁の空”が広がった頃。
「―――――すげえ神々しいな、暁の空って。・・・なんか、桐そのものって感じ」
腕の中の桐にそう囁いて、乱れた前髪の間から覗くふるんとした額に口づけると、気怠げな吐息が微かに漏れて小さく身動ぎ俺の胸に頬を摺り寄せる。
「ありがとう、桐・・・」
不毛の闇から救い出してくれて、ありがとう。
朝を迎える喜びを教えてくれて、ありがとう。
俺を愛してくれて、ありがとう。
ベッドサイドの灯りを消して、ゆっくりと近づく夜明けを見据えた。
「―――――朝が来るよ、桐」
ほんのひと月ほど前に桐も言っていたその言葉を俺も口に出してみる。
希望に満ちた朝の光。
この決して長くはない暁の夜明けを過ぎると、間もなく一面が朝陽に染まるだろう。
神聖で、煤けた心を浄化するようなその光は、まさに俺にとっての桐そのものだと改めて強く感じ、心強さと幸福感の歓喜に打ち震え、知らず涙が零れ出す。
桐と出会ってからの俺はどうも涙腺が弱くなったようで、それはまるで今まで溜め込んでいた分を清算しているようだったけれど・・・少し照れくさいが気分は悪くない。
しかし桐にはいつだって格好良く見せたいし、強い心で守りたいと思うから、泣くのはこれで最後にしたい。
そんな(情けないが)心地好く弱った心に苦笑しながら、俺は腕の中で小さな寝息をたてる大切な存在をもう一度強く抱き込んだ。
偶然の出会いから手に入れた奇跡のようなうつくしいひと。
俺はかけがえのないこの存在を、自分の全身全霊をかけ愛し、そして護り生きていくことを、自分自身の心と桐の好きなこの暁の空に、強く誓う。
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