番外編1 学友とのひと時

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「びっくりしたぁ、ほんとだったんだ」 帰宅したクラウスを見て、お菓子をつまんでいたヴェニーが目を丸くした。 「…いらっしゃい」 「お邪魔してまーす、学長先生」 「おかえりなさい。もっと遅くなるかと思ってた」 台所からぱたぱたと駆けてきたエメが笑う。どうやら帰ってきてからずっと話し込んでいたらしい。 「友達が来るとは聞いていたが、まだいたんだな。…そうか、話したのか」 「まずかったですか?」 「いや、隠し事は面倒だろうと思っていた。よかったな。少し仕事が残っているから私は書斎にしばらくこもる。ヴェニー、ごゆっくり」 「すごいね、魔法科の授業持ってないのに私の名前分かるんだ」 クラウスが書斎に行ったあと、ヴェニーが声をひそめてエメに言う。 「全員の名前と顔覚えてるって言ってたよ。それにヴェニーのことは、家でもよく話してるし」 「やだ、変なこと言ってない?」 くすくす笑いながら、またお菓子を口に放り込む。 2年に上がった頃、思い切って家のことをヴェニーに打ち明けた。そのときも目を真ん丸にして驚いていたが、どうやらさっきの瞬間まで半信半疑だったようだ。 「騎士科の学長先生って厳しそうなイメージだったけど、家だと優しいんだねぇ。ね、結婚の決め手ってなんだったの?」 好奇心に満ちた目に気圧され、エメは苦笑した。このヴェニーという2歳下の友人は、明るく快活で、そしてゴシップに目がない。1年共に過ごしてなんでも話せる友にはなっていたが、それでも馴れ初めには話せないことが多かった。 「うちの実家が宿屋だって前話したでしょ。そこに泊まりに来られたの」 「うんうん、それでそれで?」 「それで?えっと…私、戦争のときに父と炊き出しに行ってたのね。そこで偶然再会して」 「やだ、ロマンチック!そのときって学長先生、騎士団にいたんでしょ?」 「そう。うちの父と仲が良くて。それで」 「もう、大事なとこ飛ばしたでしょ!」 「ええ?」 「『俺のものになってくれ』みたいなやつ!」 眉根を寄せて、丸い目を細めてわざとらしく切れ長の目を作る。低い声色で、ヴェニーがおどけて見せた。この明るさで、グループ演習で険悪になりそうなときにも場を和ませてくれるのだ。 「えぇー…」 「あまり困らせないでやってくれるかな」 リビングに面した扉が開き、苦笑いのクラウスが顔を出した。 「やだ、学長先生、盗み聞き?」 「君は声が大きいから嫌でも聞こえてくるんだよ」 「エメが言えないなら、学長先生が教えてくれてもいいよ」 「…飲んでるのか?」 陽気なヴェニーに、クラウスが苦笑してエメに聞く。 「ちょっとお酒入ってますけど、この人しらふでもこんな感じです」 エメの言葉に、クラウスが頭を掻いた。 「また厄介な友達だな」 「ひどいなー。言いふらしたりしないよ、口は堅いんだから」 「エメ、お茶ある?」 「ひど、無視した」 カップに注いだ茶を受け取り、テーブルに広げられた菓子をつまんでクラウスがにやりと笑った。 「あまりにロマンチックだから、君にはまだ早いよ」 ヴェニーがぽかんとしている間にクラウスは書斎に戻り、エメは頭を抱えた。余計なことを。 「私もう24だっつの。エメが結婚した年と変わんないじゃんねぇ?」
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