Act.1 発覚

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「先生に訴えたところで無駄でした。相手は理事長のご子息とご令嬢ですから」 「私立校に勤める教師の悲しさだな。首が飛ぶってほとんど文字通りだから」 「それでも、現実世界での嫌がらせなら我慢できたんですよ。だってせいぜい机ん中にゴミ入れられたり教科書ズタズタにされたり、上靴に画鋲が入ってたり下履き隠されたり、図書室から借りた本が焼却炉に放り込まれたり、トイレに入ってたら上から水ぶっかけられたり、兄貴のほうにストーカーとかセクハラされたりとかされるくらいでしたから」 「……春姉……それもう我慢の臨界突破でいいレベルだぞ」  淡々と列挙される嫌がらせのリストは、ベタといえばベタだが、黙って耐えていいものとは違う。  これ以上呆れようがないくらい呆れた声で指摘した緋凪(ひなぎ)は、警官の前でいうには釈迦に説法だが、と思いながら続けた。 「てか、立派に犯罪じゃん。机ん中にゴミと水ぶっかけられるのと上靴ん中の画鋲は暴行罪だろ。教科書と図書室の本の件は器物損壊罪だし、下履き隠しは窃盗かな。セクハラは強制猥褻罪。ちなみに暴行罪は二年以下の懲役か三十万以下の罰金、器物損壊は三年以下の懲役か三十万以下の罰金、窃盗は懲役十年以下か罰金五十万以下で、強制猥褻は六ヶ月以上十年以下の懲役にできる。ストーカーはストーカー規制法違反だな」 「……さすが、元弁護士の息子」  感心半分呆れ半分の春生(はるき)の口調に、緋凪はニヤリと唇の端を吊り上げた。 「その父さん仕込みのいじめ対策だよ。大体、世間じゃガキの暴力行為を『いじめ』なんて軽い言葉で表現するから加害者もてめぇらのやってることが軽いと思っちまうんだ。深刻なことやってる自覚がねぇんだよな。だからこうやってズルズル正式な罪状と処罰を並べるだけで、小学校の中学年くらいまでなら大抵震え上がって、パタッとこっちに構わなくなる」  整った顔に不敵な笑みを浮かべて、得々と父受け売りの対策を披露するが、それにも警官は動じた様子を見せない。
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