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不意打ちだった為か、その年にして武芸全般満遍なくマスターし、百戦錬磨のはずの従弟が、奪われた端末と教師を見比べ唖然としている。
教師が画面をタップするのと相前後して、我に返ったらしい緋凪が端末を引ったくった。
「何がいたずらだよ、本気で誘拐未遂の現行犯なんだけど!」
「うるさい、未遂で済んだなら大事にしなくともいいだろう! どうぞお察しください」
教師は緋凪の言い分を一蹴すると、忙しく通行人に頭を下げまくっている。春生を助ける素振りも見せなかった人々は、すぐに興味を失くしたようにその場を立ち去って行った。
彼らを見送った教師は、せかせかと戻ってきて春生に向き直る。
「君、ウチの生徒か、学年とクラスと名前!」
「……二年A組、市ノ瀬春生です……けど」
「ああ、やっぱり君が市ノ瀬君か」
投げるように言われて、春生は何度目かで眉根を寄せる。『やっぱり』とはどういう意味合いかを訊ねる隙もなく、教師は続けた。
「そういうことだから、君もくれぐれも保護者に今日拉致され掛けたなどと余計なことを言わないように!」
「そんな!」
「そうすれば、この書き込みは不問に付そう」
「はあ?」
眉根のしわを深くした春生の前に、教師がズイと自身のスマートフォンを突き出す。
画面には、春生の――明らかに隠し撮りと思える写真が映し出されていた。
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