Act.1 発覚

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「写真データの削除くらいは先生でもできる。それに、検索や閲覧の履歴の削除もな」 「じゃあ、これから今すぐ警察に持ち込んで調べてもらって構いません。今時の科学捜査なら消去した履歴でも復元可能だと聞いています。先生にも私の潔白を確認していただく意味で同席していただきます。お時間よろしいですか?」  警察、という単語が出て来た途端、教師は瞬時、言葉を呑んだ。  先刻、野次馬を追い払い、緋凪の端末を取り上げて強引に通信を切ったことからも明らかだが、少なくともこの教師は警察に関わりたくないらしい。 「……家にパソコンは」  それでも教師はしつこく食い下がってきた。何がどうでも、春生の落ち度にしたいようだ。だが、春生も負けていない。 「保護者である伯父が使っているものだけです」  春生は両親が世界を飛び回る仕事をしている為、物心付いた時からずっと、彼女の妹と共に緋凪の家で暮らしている。よって、保護者と言えば、春生には伯父夫婦である緋凪の両親を指した。 「でも、要求があれば伯父は喜んで差し出します。(やま)しいことはありませんから」  教師は軽い舌打ちと共に、「とにかく、今日のことは他言無用だ」と言って緋凪から自身の端末を奪い返す。 「次に何か問題起こしたら退学処分の上、(しか)るべきところへ訴えるから覚悟したまえよ」  捨て台詞と共に、校門の内へ引き返していく教師に「だったら今すぐ然るべきところへ訴えろよ、誘拐未遂犯を!」と怒鳴るが、教師が振り返ることはなかった。 「……どうする春姉」  遠くなる背に、追い縋ってぶん殴りたい衝動をどうにか抑えながら、緋凪は春生に目を向ける。 「当然、この足で警察署にチョッコーよ。一番近いトコにね。凪君も付き合ってくれるでしょ?」  日本人形のような楚々とした見た目に似合わぬ強気な言葉が出て来て、緋凪は思わず苦笑した。 「当たり前だろ。俺目撃者だし、このあと春姉一人にするの危なすぎるし」 「……そう言えば何で都合よく居合わせたの?」
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