Act.1 発覚

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 黙ったままきびすを返そうとするが、後ろにも取り巻きがいる。そこから去ろうとしても、どうしても動けなかった。 『あの、帰る所なんです。通してくださいませんか?』 『じゃあ送っていくよ。家はどこ?』  馴れ馴れしく肩を抱き寄せられて思わず悲鳴が出掛けるが、どうにか呑み込んだ。 『セクハラで訴えますよ?』  目の笑わない笑顔で言って、肩に回った(のぞむ)の手を捻り上げる。  思わぬ反撃に、臨のほうが悲鳴を上げた。 『なっ、何するんだよ!』  彼が(はじ)かれたように離れる。必然、囲みが崩れ、春生はその隙を逃さず猛然と廊下をダッシュした。 「……何するが聞いて呆れるな。初対面のクセに肩に手ぇ回すとか立派なセクハラじゃん」  思わず吐き捨てるように言った緋凪の反応に構わず、目の前にいる警官が「それで?」と先を促した。 『ねね。お兄ちゃんと付き合うことになったんだって?』  その翌日、これまた見知らぬ女子生徒から囁くように話し掛けられて、春生はまたも面食らった。  昼休みも後半に差し掛かった頃のことだ。  昼食も食べ終えて、図書室から借りた本を読んでいた春生の机の周りを、話し掛けてきた女生徒と、その取り巻きと思しき三人の女生徒が取り囲んだ。 『……どちら様?』 『ねえ。本当にあたしのこと知らない?』  物言いが、前日のサイコパス男とそっくりだ。血縁だろうか。  そう言えば、比較的整った顔立ちには、やはり男の面影がある。 『問いに問いで返すのは失礼よ』  春生は、目を落としていた本に栞を挟んで机に仕舞った。借り物をこういう言い争いの場に出しておくと、碌な結果にならない。  すると一拍の()を置いて、『小谷瀬(こやせ)貴美芳(きみか)』と唐突に相手が名乗る。  胡乱(うろん)げに視線を上げると、名乗った少女は細く引き締まった腰に片手を当てて春生を見下ろしていた。 『小谷瀬臨の妹よ。あなたとは同い年だけど、あたしは理事長の娘なんだから、ちゃんと敬語で話して』 『……“理事長の娘”ってだけの肩書きに敬語が欲しければ、(おお)せのままに』
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