Act.1 発覚

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 うっすらと微笑んで平板な口調で言ってやる。さすがにそれが嫌みだと分かったのか、貴美芳(きみか)は頬を引き()らせた。 『ふ、ふん。いいわ。好きにして』 『これはどうも。恐縮でございます』  春生(はるき)は変わらず丁寧に、胸元へ片手を当ててお辞儀もしてやった。 『それで、貴美芳様。わたくし如き庶民に、どういった御用向きでしょう』  殊更大仰になった敬語は、最早完全な嫌み以外の何者でもない。取り巻きにも理解できているのだろう。三人は何とも微妙な顔付きになり、貴美芳は唇の片端をヒクヒクと震わせている。 『大袈裟な敬語はやめてよ! とにかく、お兄ちゃんと付き合いたいんでしょ!?』 『いいえ?』  やめろと言われても、どうしようもない。やめたらやめたで何を言われるか分からないのだから。  時代劇がかった敬語をそのまま、小首を傾げた春生に、貴美芳は目を見開いた。驚く表情まで兄妹はそっくりだ。 『何で?』 『なぜ……と(おっしゃ)いますと』 『だって、だってお兄ちゃんは、ここの理事長の息子よ!?』 『それで?』 『おまけにイケメンだし!』 『だから?』 『現代の立派なプリンスじゃない! 知らない振りまでしてお兄ちゃんの気を引いたクセに付き合いたくないなんてどうかしてるわ!』 「……そいつがどうかしてるわ」  緋凪(ひなぎ)が、やはり吐き捨てるように断じる。吸い込まれそうな青い瞳が、心底呆れたと言わんばかりに細められた。 「随分一方的な話だな。知らないものを知らないって言っただけなのに、それが知らない振りで気を引いたことになるなんて、どーゆー脳の構造してんだ?」 「さあ」  不機嫌そうな警官の前だからか、春生は言葉少なに言って肩を竦めた。  だが、目の前の警官は、それ以上春生の話の続きを促す様子がない。肘を突いて、退屈そうにボールペンの芯を出したり引っ込めたりしている。 「……で、それからずーっと嫌がらせは続いてんのか」  仕方なく緋凪が水を向けると、春生はもう一つ肩を上下させ、警官に視線を戻す。
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