第38話 特別機動部隊の精鋭たち

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第38話 特別機動部隊の精鋭たち

 上空で黒い塗装のヘリコプターで待機している検非違使庁特別機動部隊、 “漆黒の鷹” の精鋭たちは藪鮫と同様の黒い戦闘スーツに身を包み、隊長の緒方(おがた)が本部の佐々波と交信をしているのを見ていた。 「副長、あの結界を張っている素人さんとなんとか連絡取れねえんですか。  先ほどからどこかに亀裂か未接合の場所がないか、霊波探査してんですが、どうにも頑丈な結界で」 「わかっている。  だがこちらではその面々がどういう人物なのか、掴んでいないんだ。  唯一、藪鮫が知っているんだが先ほどから応答がない。  まさかとは思うが」 「へへっ、副長。  やつがそんな簡単にくたばるもんですか。  それこそ “天狗筒” をいつ使うか、そっちに気を取られてるんじゃないですかねえ」  緒方は髭をたくわえた巨漢で、口は悪いが視線はずっと下の採掘現場を心配げに見つめている。 「もし “天狗筒” が使用された場合、そのヘリも危ないぞ」 「百も承知でさあ。  それより結界が破れないなら、腕ずくでやろうと思ってんですが」  言いながら緒方は待機している部下に視線を向ける。  ヘリコプターを操縦する駒ヶ岳(こまがたけ)を除く五人が実働部隊である。  隊長の緒方をサポートする副隊長の金剛寺(こんごうじ)は三十歳前半代であるが、頭脳明晰で軍師的役割を担う。  その横に座るのは部隊の中で一番小柄な(せり)。  二十歳代後半の坊ちゃん刈り、童顔である。  身体能力に秀でており、体操オリンピックに出れば確実にメダルを獲れると自称している。  あとの二名は二十歳代の女性隊員であった。 「腕ずく? “闇土竜(やみもぐら)” か」 「さようで。  このところ実戦がなかったんで、みんな鈍ってますからねえ、たまには身体を動かさねえと。  また他の公務員に税金泥棒呼ばわりされちまいまさあ」 「フフン、我々が活躍しないほうが、世の中は平和だってことだがな。  よし、緒方隊長、ここからは貴官に一任する。  結界内にいる民間人の救出を最優先で、次が疫鬼の討伐だ」  あえて佐々波は藪鮫のことには触れなかった。 「ありがてえ、副長。  常に交信できるようにしておきますんで、藪鮫が “天狗筒” を使用する前に一報くだせえ」 「そうだな、いくらかでも走って逃げられる時間が必要だな」  緒方は鼻で笑った。 「冗談言いっこなしですぜ、副長。  こちとら、とうにこの命はお国に捧げてまさあ。  一度でいい、 “天狗筒” の発射ををまじかで観たいって思ってたんですよ」  通信を切ると緒方は部下を睨んだ。 「おぅしっ、副長殿の許可が出た。  ここから俺たち “漆黒の鷹” の本領発揮だ。  いいかてめえら!」  オウッ!  全員が拳を突き上げた。  と緒方は思ったが、女性二人の部下は黙ったまま手鏡を見ながら口紅を塗り直している。 「おいっ、おめえたちゃあ何やってんだ」  やや目尻の上がった掘りの深い面立ちの祀宮(まつりみや)は、緒方に声だけで返事する。 「見りゃあわかるでしょ、隊長。  お、け、しょう、な、お、しよ」  もうひとりの女子隊員、七宝(しちほう)は女子大生のような幼いキュートな顔でニコリと微笑む。 「だってえ、保安官の中で一、二を争う超イケメンの藪鮫さまにお会いできるんですよう。  あっ、隊長」 「な、なんだ」 「任務終了したら、藪鮫さまとのツーショットを私のスマホで撮ってくださーい。  すぐにフェイスブックとぉ、ツィッターとぉ、インスタに載せるんだからあ」  緒方は頭を抱えた。 「なぜこいつらが “漆黒の鷹” に配属されてるんだ、って顔ですよ隊長」  隣の金剛寺が緒方をのぞき込む。 「わかってる、わかってるよぅ!  こう見えても、こいつらがとてつもない戦力だってことはな!」 「さあって、今日もバッチリ決まりましたと。  隊長、何やってるんですか、早く “闇土竜” の準備してくださいよ」  祀宮は化粧道具をポーチにしまいながら言う。  緒方はしぶしぶ立ち上がった。                                 つづく
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