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第43話 再び分裂する化け物
ピチョーン、ピチョーン、どこからか滴がひび割れたむき出しのコンクリートにはじける音がする。
鉄錆とほこりの臭いが漂う。
破れたトタン屋根から、意外にも明るい星々の明滅が全体を浮かび上がらせていた。
かつては良質の石灰を金生山から切り出し、加工していた工場。
今では荒れ果てた鉄とコンクリートの、無用の塊となっていた。
二階建て相当の土台を支える鉄骨は腐食しており、割れた窓ガラスは鋏でジグザグに切ったような残骸と成り果てている。
天井からつるされたクレーンもすでに役割を終え、錆に浸食され放題だ。
ひび割れたコンクリートの床には水分を含んで使い物にならなくなった石灰を詰めた袋が何段にも積まれ、ベルトコンベアには破れた袋からこぼれた石灰が固まっていた。
ナーティは荒い息を押し殺し、周囲を凝視している。
珠三郎は胸元にタブレットを、背中にはPCパソコンを肩のアームで左右に固定させているが、今はタブレットを操作していた。
その横には珠三郎に無理やり重いリュックを担がされ、這うように走ってきた五条が肩で息をしている。
ぬえはトンファーを再び杖に戻し、じっと耳を澄ませていた。
「どうじゃな、怪人さんや。
あの化け物は見つかったかや」
珠三郎は式神の蠅を終結させ、張った結界内を索敵していた。
「うーむ、地中に潜ってこの辺りにいるはずなんだけどなあ。
邪気が微妙に入り乱れちゃってるんだよーん」
「それにしても、薄気味の悪いところね。
ワタクシのか弱いハートが今にも破裂しそうだわ」
ナーティは足音を立てないように、辺りをうかがう。
「源ちゃんや、先ほどから辛そうじゃが大丈夫かいな」
ぬえはコンクリートの上で体操座りし、荒い呼吸を繰り返している五条に声をかけた。
「いや、わしゃあ大丈夫。
それよりも何か忘れているんだ。
それがとても重要なことなんだが。
どうしても思い出せん」
「無理もないのう。
のんびりと大学で教鞭を執っておったのに、突然こんなわけのわからぬ状況に追い込まれてはのう」
五条はぬえに生返事しながら、眉間に寄せたしわを一層深くしていった。
「おんやあ?」
タブレットの画面を見ていた珠三郎が、首をひねる。
「どうしたの?
タマサブ。
化け物を発見したのかしら」
ナーティは手にした日本刀を肩に担いで近寄った。
「ボクの優秀な式神くんたちが、一生懸命飛びまわっているんだけどさ。
一部をあの穴を掘って逃げた後を追尾してるんだよーん。
それがさ」
珠三郎は顔を上げた。
「途中から穴が幾つもに枝分かれしてるみたい、グヘヘッ」
「グヘヘッ、ってどういうことなのよ」
膝にタブレットを置いたまま、珠三郎は腕組みする。
「わからないかい?
つまりだ、あいつは土の中でまた分裂したんだな」
ナーティは額に汗を一滴垂らした。
「分裂って、また化け物の数が増えたってこと?」
「さようさ。
つまりはそういうこと。
大丈夫、大丈夫。
いくら増殖しても、ボクの張った結界は言ってみれば球体なのなの。
だからぜーったいに外へは出られませーん」
得意げに鼻をふくらませた。
「い、いやそうじゃなくて!
どうやって戦うのよ。
さっきの蛇はもう勘弁願いたいわ」
ナーティは鋭く周囲に目線をやる。
「金色矢遮のことかな?
あれはもう全部使っちゃったからあ。
次はどうしよっかな。
それに、このシグナルは」
珠三郎は金生山周辺を立体化した図表が写しだされている画面を指さし、首を傾けた。
つづく
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