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第31話 秘術 “金色矢遮”
ナーティは襲ってくる子疫鬼を村正で迎え撃っている。
その間ぬえは倒れている五条を介抱していた。
「ぬえちゃん、すまないね。
こんな危険な所まで助けに来てもらって」
五条は肘をついて上半身を起す。
それを手伝いながらぬえは言った。
「なんの、なんの。
大事な幼馴染みの窮地だでな」
「あの化け物を眠りから覚ませてしまった。
このままではとんでもない禍いがこの地に、いや国内に降り注いでしまう」
苦悶の表情を浮かべる五条。
「あのけがらわしき物の怪は、いったいなんじゃな?」
「あれは私の見立てでは、朝鮮半島に生息していた疫鬼。
だがただの疫鬼ではないようなのだ」
ぬえはちらりと視線を、子疫鬼を切りさばくナーティに向けた。
ナーティは腹を空かした猛獣のように次々と襲い来る妖物を、一刀両断で切り捨てる。
ところが真っ二つに分断された子疫鬼は、しばらくすると切断された面が盛り上がり、身震いすると完全体となり、分裂して攻撃をしてくる。
長い尾が空気を裂き、ナーティめがけて振り下ろされる。
「ヒーッ!
これじゃあ切っただけ増えちゃうじゃないのっ」
ナーティは額から汗を飛ばし、それでも刀で迎え撃つ。
五条は細い首を伸ばした。
「ただ唯一、やつらを葬る手立てはある!」
ぬえは跳んできた子疫鬼に地面をすべるように近寄り、両手のトンファーで叩き伏せた。
「その方法とは、なんじゃいなっ」
五条を振り向いたぬえの聴覚が、別の音を捉えた。
ナーティも刀を一閃させてその音を耳にした。
ヒューッ!
ヒューッ!
ヒューッ!
鋭い擦過音が天空から猛烈な勢いで降ってきた。
「こ、今度は何なのよーっ!」
ナーティは飛来する物体を視覚で把握する。
真っ暗な空から大地へめがけて降ってきたのは、蛇であった。
しかもその無数の蛇は金色の鱗を光らせ、大きく口を開けて鋭い牙をむき出していた。
「へ、へ、ヘビーッ!」
雨霰と降り注ぐ金色の蛇は敵味方関係なく牙を突き立ててきた。
ナーティは刀を旋回させて蛇を切断していく。
ぬえは五条を守るようにトンファーをバトンのように振り、蛇の攻撃を避ける。
子疫鬼たちは防御する本能が欠落しているのか次々と蛇の毒牙にかかり、全身を金色に染めながら大地に転がる。
穴で親疫鬼と対峙している藪鮫とリンメイも、雨のごとく天から降り注ぐ蛇を撃退すべく九尾剣と扇子で撃ち落としていく。
親疫鬼にも同様に蛇が食らいついていくが、蛇の牙が緑色の燐光を放つ身体に突き刺さったとたん、淡く輝く緑色の体液が吹き出してそれを浴びた蛇は溶けていく。
「うーむ。
東北の修験者からかっぱらった、いや拝借した“金色矢遮”の威力でも、あの本体には効かないかあ」
珠三郎は降り注ぐ蛇を、長い髪を振って払いのけながらつぶやく。
身体はシールドで守られているため、蛇の牙を防いでいた。
頭に取り付けたカチューシャ型インカムから、ナーティの怒号が聞こえる。
「アンタッ!
こんな蛇なんか大量に降らせてどうすんのよ!」
珠三郎はフウッとひとつ息を吐くと、タブレットに指をすべらせた。
何百何千と蠢めいていた金色の蛇は、ポンと音を立てて金色の塵となって霧散していく。
つづく
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