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第34話 “天狗筒” の使用許可
検非違使庁作戦指揮室内。
男性職員のヘッドセットにコールサインが送られてきた
「副長、藪鮫保安官から緊急連絡です!」
「よし、こちらに回せ」
佐々波はデスクの電話をスピーカーフォンに切り替える。
これは横に立つ長官、合羅にも聞いてもらうためであった。
「あーあー、聞こえますかあ」
電話のスピーカーから、やけに間延びした藪鮫の声が響く。
「ああ、感度良好だ。
こちら佐々波。
合羅長官もおみえになっている」
佐々波は合羅を見上げた。
「長官もおいでですか。
それはお疲れさまでぇす」
「なぁに、藪鮫くん。
現場にいるあんたさんに比べたら、こっちは楽なもんさ」
「えーっと、さきほど連絡入れましたように、疫鬼と認識できる妖物と現在交戦中なんですが、どうやら疫鬼のやつ、少しばかり地中で衣替えしたようでして。
通常の近代呪法では限界がありそうなんですねえ」
「衣替え?」
佐々波は眉をしかめる。
「まあ言ってみれば疫鬼の眷属、もしくは亜種といったところでしょうかぁ」
「つまり超疫鬼って解釈でいいかい?」
合羅の言葉に、藪鮫は相槌を打った。
「そうです、そうです。
九尾剣を使用しておりますが、これだと守りだけになってしまってまして」
そこで言葉が切れ、藪鮫の激しい呼吸音がしばらく続く。
どうやら攻撃を受けているらしい。
「ああ、すみません。
やっこさん、いったい何本あるんだってくらい尻尾が生えてましてね、そいつを鞭か槍のようにブンブン言わせてるんですよぅ」
「特機隊は到着しているのか」
佐々波は心配げに訊く。
「はい。
現在頭の上で待機してくれてます」
「キタの呪術師がいるらしいが、それが結界を張っているのか」
「あー、いえいえ。
呪術師のオネエサンは呪法で身体能力をアップさせて、疫鬼と闘っていますよ。
結界を作っているのは、一般人です」
佐々波と合羅はお互いに見合う。
「一般人って言ったかい?
藪鮫くん」
「そうなんですよ。
いやあ、いるもんなんですねえ。
この時代に我が国にも呪術を操る人って。
まあ悪い人たちじゃないでしょうし、妖物に対しても積極的に立ち向かってくれてます」
「たち、ってことは複数いるってことかい?」
合羅は驚いたように目を開く。
「任務が終了しましたら、そのことも含めて報告書を書きまぁす。
ところでぇ、ご相談というよりも許可をいただきたいと思いまして連絡しました」
藪鮫の飄々とした物言いに、合羅は口に笑みを浮かべた。
「わかってるよう、藪鮫くん。
“天狗筒” を使わなきゃならないほどの相手、なんだろ」
さりげなく口にした合羅に、佐々波は驚きの表情を浮かべる。
「ちょ、長官!
“天狗筒” の使用を許可されるおつもりなんですかっ」
「さようさね」
二人のやりとりを耳にしている他の職員たちも、一斉に振り返った。
「しかし “天狗筒” を使うとなれば、総理だけではなく、神宮の許可を得ませんと」
「んなことは先刻承知さ、佐々波くんよ。
ただそんなお役所仕事をしていたら、O市いやこの国土はどうなっちまう? 相手は待っちゃくれないよ」
スピーカーから藪鮫の声が届く。
「副長、ご心配なく。
万が一の時までは使いませんから。
私の一存で使用するわけにはいけませんから、一応口頭による事前申請をしたまでです」
「ああ、確かに申請を受理したよう、藪鮫くん。
まあできれば “天狗筒” を使わなくても駆逐できりゃあ、それにこしたことはないけどさ」
佐々波は手招きで女性職員を呼び、神宮への申請準備をすぐに行わせる。
ちなみに神宮とは三重県の伊勢神宮のことである。
「ありがとうございまーす。
最悪 “天狗筒” を使用せざるを得ない前に、なんとか頑張ってみます。
おっと、やっこさんが動き始めましたので、また連絡いたします」
プツンとスピーカーフォンが切れた。
「そうか、そこまでの相手だったとはねえ。
藪鮫くん、頼んだよ」
合羅はつぶやいた。
つづく
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