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そしてそれからと言うもの、もはや「他愛のない」と言えばきっと俺達の事だったんだろう、やれ仕事がどうしたとかあのタレントはどうだとか、一周回ってまた【NANA】とか、おおよそ誕生日とは関係のない事で盛り上がって
だけど俺にはそれだけでも、本当はもう十分過ぎるくらいで文句はなかった、そりゃあ確かに焦れったいほど【恋】のお話だけが出来なかったけど、俺は心から幸せだった
大好きな街の大好きなお店で大好きなみんなと一緒に、そんでもって改めてどうしようもなく【好き】で仕方のない英里ちゃんも
これで最高に幸せじゃない筈がなかったんだ、そんな中でお喋りをしてお酒を飲んでご飯を食べて、しかし祐介の居ない今、煙草の時だけはどうしても独りだったけど、みんなと共にする時間の全てがある種誇るべき時間だったんだ
しかしこれがどうしたって困りもの、楽しい時間に面白い時間、つまりは幸せいっぱいで充実してた時間ほど過ぎてしまうのはあっという間で、まあでもその分今夜の自分は幸せだったんだって、本来であればきっとそんな風にここは修めて然るべきなんだろうけど
そう出来ないのには理由があった、もちろん一番の理由は英里ちゃんともっと一緒に居たかったからに決まっているけど、だけど何がそんなに悔しくて不満だったのかってさ、だってここのラストオーダーの23時までまだ1時間からあるって言うのに、俺の誕生日だからって実は無理をさせられていた佳樹と、そんな佳樹の【彼女】の理沙ちゃんが早くもまあまあベロベロで
仮にも俺が主役なのに、どうにもならなくなってしまったんだ、だからって毎度の俺みたいに吐くとか暴れるとかじゃないけど、しっかし露骨にデレデレで見た目にも言葉にも品が無くなってくると、そこは英里ちゃんにしてみてもきっと俺の事なんかより【親友】の理沙ちゃん
根っからの心配性は今夜も今夜とて全開で、やっぱり自ずとピリピリしちゃって……………
こんな事ならもう帰って欲しいくらいだった、同じ酔っ払うでも例えば酔っ払った勢いで「みんなでカラオケに行こうよ!」みたいな、そんな提案をしてくれるんならまだともかく、佳樹もそうだし理沙ちゃんまで「ヤりたい!」って顔をしちゃってさ
見せ付けてくれるじゃありませんか、幸せなようで辛い俺の気持ちを知ってかそれとも知らずか、羨ましくってどうしょもねぇ……………
まあだからって俺も今さら僻みやしないけどさ、これでも一応「大河君と英里はアリだと思う」って、【親友】に言ってもらえていたもんで、落ちたり沈んだりはしないけど
だけどそれでもとにかく迷惑は迷惑だった、だって2人がもしもこんなにも早くお酒に飲まれてなんかいなければ、至って朗らかなまま時間いっぱいまで楽しく過ごせた筈なのにさ
なんなら2軒目でもそれこそカラオケにでも、俺の方から自発的に提案させてもらっては、今夜は英里ちゃんともっとずーっと……………
俺はそんな風に思っていたんだ、なんならそれこそが一番の誕生日プレゼントだと思って、今夜はそんな夜にしたかったのに
つーか今や俺の気持ちを知らない訳じゃないんだろう?そんなら気を使ってここはそろそろ帰るくらいの事をしてよっての、そうすれば上手い具合に俺は2人になれるんだから……………
それなのに佳樹はともかく理沙ちゃんってば、久しぶりの無礼講のお酒が楽しくて仕方がなかったんでしょう、誰がどう見てもヘロヘロなのにお酒も食べ物も次から次へと
例えばお喋りの1つにしたって完全に自分が中心でさ、まあだからってそれもそれで楽しかったと言えば楽しかったんだけどさ、でもだからこそ【恋】だけが相変わらず発展し得ない次第が、苦しくって苦しくて
俺もやっぱし飲んでいるしかなかったんだ、となりの英里ちゃんと一緒になって時々おんなじような苦笑いを浮かべたりしながら、ただ流れ行く時間に抗う事は出来なかった……………
「ねぇちょっと!理沙は飲み過ぎだよ!そろそろお酒は止めにしてお水も飲みなって!」
しかしそんな2人に対して、いささかな不安と不満を覚えていたのは、どうやら俺だけではなかったらしい
心配と不満はイコールってか?俺にはどうしても言えなかった事を先に言葉にしてくれたのが、まさか英里ちゃんだったんだ
「つーかそれを言うならマジで佳樹もな、飲み易くてついつい飲んじゃったのかも知れないけど、一応ハイボールってばベースがウイスキーなんだから、もしも過ぎたらそんなに穏やかな酒じゃねぇぜ?まあそれを言ったら全部の酒がそうなのかも知れないけど」
もしかしたらこれって千載一遇のチャンスなのかも知れない、時間を再び穏やかな時間に戻せるのかも知れない
ちょっぴりムスッとした顔もいちいち可愛い英里ちゃんのとなりから、こうなりゃ今こそ自分の為にも、俺は普段が普段なだけにどうしても言えなかった粛正してほしいその旨を、淡々といざ言葉にさせてもらったんだ……………
だけど……………
だけど状況は変わらなかった、さすがにそこは酔っ払いが相手だったって事なのか、無理に飲まされてはそんで飲んでいた佳樹はともかくとして、理沙ちゃんはどこまでも傍若無人なまでに、変わってくれなかったんだ……………
「大丈夫だって大丈夫だって!まだまだ22時前なんだよ?それなら夜はこれからじゃん!それなのにこのくらいでへばっちゃうような、そんな根性なしの私じゃないもんっ!」
「私だって別にそう言う事を言っているんじゃないでしょ?ただほら今夜は大河君のお誕生日で大河君が主役なんだから、いつもみたいに理沙ばっかりがはしゃいでいるのはどうなのって、私はそう言いたいだけ!」
「それは英里が心配し過ぎてるだけだよ、それに大河君だって賑やかな方が楽しいでしょ?」
「うーん……………まあ俺もそこは否定しないけどさ、でもお友達の優しさを無下にしちゃうのはダメでしょ、英里ちゃんだって別に楽しむ事を我慢しろとは言っていないんだからさ、ここはとりま水をもらっとこうぜ?」
まあだからって俺達も、つーかこうなりゃ俺は英里ちゃんを尊重してあげたかったが為に、例えばおとなしく引き下がるように、平穏なる時間を諦めたりはしなかったけど……………
「だってさ理沙、ありがとね大河君」
「そうは言ってもだよ大河君も!明日も連休でお仕事だってないんだしさっ!それに私も知ってるよ?この中で一番酔っ払いにさせたら大変なのって大河君なんでしょう?大河は面倒な上に長いんだって……………泣き上戸だし叫ぶし暴れるし、この人がいつも心配してるよ?」
表現はちょっと違うかもでも、これもきっと一種の身から出たサビ、だからってそれがとてつもなく悪い事とは言わないけれど、俺らが何を言ったところで今や誰よりも楽しそうに酒を飲んでは笑っていた理沙ちゃんは、これが一切聞き分けてくれなかったのだ
「ちょっと理沙!今のは失礼だよ!」
「まあまあ英里ちゃん、別にその程度を俺は失礼とは思わないから、それにぶっちゃけ事実なんだし仕方がないよ……………だけどこれだと困ったなぁ、これだと俺はともかく英里ちゃんはきっと心配で楽しめないもんね」
「うん……………ごめん……………」
「まあまあそう肩を落とさずに……………別に英里ちゃんが謝る事でもないんだからさ」
怒る英里ちゃん、そんでもってなだめなきゃな俺、英里ちゃんが酔っ払いが嫌いな上に俺らの方が歳上だから、これもまた仕方がないと言えば仕方がない事なのかもだけど、これではさすがに俺もマジで困った
だってもう楽しくないんだもん、そればかりかそうやって落ち込む英里ちゃんって、見ているだけでも辛かったんだもん、だから俺がどうにかしてあげたかったんだんだけど
例えば同じ誰より自由にするでも、俺の酒癖の悪さを引き合いに出されて、そんでもってある種正当化されてしまうと、もう反論の余地もなくって
だけどこのままじゃダメなんだ、だけど「だったらどうしよう?」って、ここはもう考え得るに、きっと俺が勇気を振り絞るしかなかった
「理沙ちゃんもかなり楽しそうだよね、でもどうせ2人は付き合ってるんだし、そんでもって家はすぐそこだし、そいじゃあとりあえずここは一度解散をして2人を無事に返したら、その後でどこかに2人で入り直さない?」
口に出したら逆に失礼かも、そんでもって超絶大胆なのかも、そして俺は頃を見てスマホをポケットから取り出すと、やっぱし2人になりたいなんて淡くて真っ直ぐな期待も込めてとなりの英里ちゃんにラインを送った……………
そして待つ、今度は必死に待ち続ける、そんなラインに英里ちゃんが気付いてくれるまで、平々凡々かつ毅然とした態度を作りながら、おとなしく待ち続ける
そいで……………
静かに静かに、10分か15分か……………
「良いよ、大河君さえ良ければそうしよう」
英里ちゃんはまず押しに弱くて、しかも断れない性格の女の子だった、そんな事実を知ってしまってからだと、俺はぶっちゃけ複雑だった
しかもその上で今夜がそんな俺の誕生日だったなんてさ、我ながらズルい男だよ……………
しかしこれにて俺と英里ちゃんは、まもなく2人になれてしまうのだ!これはさすがに申し訳ないほどのテンションの上昇も禁じ得なかった次第、改めてニヤニヤしそうでヤバい!
そんじゃあ後はさっそくそろそろ解散をする方向で、話を進めるだけなんだけど、とりま一番に肝心な英里ちゃんの了承を既に得られているんで、酔ったと同時に眠たそうにしていた佳樹を上手い具合に利用出来れば、それはそれはきっと造作もない事だったのだ……………
「佳樹はとりあえず水を飲みな!つーか別にそんな無理に長時間付き合ってもらわなくても、俺はもう十分以上に心がいっぱいなもんでさ、だからもうなんも気を使わないで良いから、眠いんならそろそろお開きとしようぜ?」
つーか逆に気を使ってくれってお話、だからってあんまし必死になり過ぎてしまう事はなく、どこからどう見ても下心ならなさそうに淡々と平然と、そんなスタンスと表情を意識的に
理沙ちゃんの方の説得はこの際英里ちゃんに一任で、俺は意識と言葉の全てをまずは佳樹だけに向けた
そこはやっぱしこれよりサシになろうとしていた訳で、旨の全てをもしも感じ取られてしまったらって、ぶっちゃけ照れ臭くもあったんだ
「えーっ!?解散なんてつまんないっ!ゴールデンウィークなんだよ!?平日なんかじゃないんだよ!?カラオケくらい行きたいじゃん!」
「それはそうかも知れないけど、少しは周りも見なくちゃ、佳樹君そろそろお疲れだよ?」
「ちょっとくらいならきっと平気だもん!いつもこんな感じなんだから、ねっ!行こっ!」
「そうは言ってもねぇ、いつもちょっとじゃ終わらないのが理沙のパターンなんだから、申し訳ないけどここはやっぱり帰るべきだよ」
「えーっ!?と言うかじゃあ大河君はどう思ってるの!?大河君もカラオケは好きでしょう?と言うか大河君の誕生日じゃん!」
大河君の誕生日だったからこそ、それなら俺は余計にさっさと2人になりたかった訳なんだよ
でもそうやって誰よりも、今夜と言うこの時間を楽しもうとしてくれいた理沙ちゃんの、そんな気持ちは普通に嬉しかったんだ……………
「確かにカラオケは好きだけど、でも無理は嫌いかな、ありがとね理沙ちゃん……………だけどここは俺よか佳樹の事を立ててやってあげてよ、だってこのままだと確実に彼は俺や英里ちゃんに迷惑を掛ける事になると思うけど?まあそれでも仮に俺らがそれを迷惑とは呼ばなかったとしても、【彼女】としてそう言うのってぶっちゃけどうなの?」
だけど今回はもう譲れやしなかった、結局俺は英里ちゃんの事がもう大変に【好き】だからさ、ポジティブなラインのお返事をもらえて、そんでもって2人になれるってなったその瞬間から、ある種対になるような提案はもう承認出来なかったんだ
「残念だけど今回はそう言う事だよ理沙、みんなもう学生なんかじゃないんだから、気持ちは解るけど無理のある事は控えようよ」
「なぁーに、別に今夜にこだわらなくても、カラオケくらいならまたいつだって一緒に行けるんだからさ、それに言ってしまえば連休だってまだまだこれからじゃん?なんなら俺もすぐに帰ろうとは思ってないし……………でもとりあえず今夜のところはつー事で解ってよ、てか佳樹お前!まだ寝るなっての!」
しかしもうすぐ解ってくれそうだなって、ついついそこまで言い切ってしまうと、理沙ちゃんはこれにて理解してくれた感じだったんだけど、まさか一瞬だけだったけど、英里ちゃんを不安そうな顔にさせてしまったのだ
でも大丈夫、まさか俺に限ってヤりたくてもまだヤろうとはしませんから、ただ何にしたってそんな気持ちも一度は解ってもらえない事には、英里ちゃんはきっと心を許してくれないんで
「大丈夫だよ大丈夫、まさか俺までそっちで厄介になろうとは思ってないし、それに英里ちゃんの事ならきちんと真っ直ぐ家まで送るから、2人はなんにも心配しなくて良いよ……………」
それってもしかすると墓穴だったのかも、これにて断らなくても帰れるなんて思われちゃったら、本当に真っ直ぐ送り届ける事になってしまう、なんなら送らなくても大丈夫とか言われちゃって、そのままバイバイになっちゃうかも
だけどきっと仕方がなかった、つーか俺だって例えば今ここで下手に欲を出して嫌われてしまうくらいなら、この【恋】の可能性を自ら摘んでしまうくらいなら、それはそれは寂しいけど出直すくらいの腹だから
後悔したって下手はしたくない、こんなギャンブルってば辛過ぎちゃうに決まっていたけど、それでもここは冷静にどうぞ俺と言う人間で男を、誤解しないで欲しかったんだ……………
「そうね、そこまで言うんならまた今度にしよっか、と言うかこの人がこんな時間から眠そうなのだって、そもそも私が飲ませちゃったからなんだし、またすぐに次があると思って今夜のところはそうしておくよ……………あっ、でもここのお会計は任せてっ!するとプレゼントとしてはかなり安くなっちゃうんだけど、ここはウチらで出そうって最初から決めてたから、ああてかもちろん英里もいいよ、恥ずかしながらウチらからのプレゼントの用意ってなかったんで、ここは持たせてよねっ!」
「悪いね理沙ちゃん、ごちそうさま、つーか佳樹もマジありがとな、なんだかんだ言って今夜もしっかり4時間から付き合わせちまったよ、どうもありがとう……………またなんかあったら連絡すっから、今夜はゆっくり休んでくれな」
22:25
そんなこんなでとりあえず宴もたけなわ?
なんなら同時進行形でドキドキバクバクで、最後にはいよいよよく解らなかったけど、とってもまあるく閉まってくれた事だし、俺達はひとまず【さざなみ】を後にした……………
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