9-350『俺の友達、私の友達』

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「そこのところも最近ではどうなんだろ、幼馴染みで付き合い長いし私も英里の事が大好きだけど、結局のところ私達も毎日忙しく社会人やってるし、英里はまだそこに居るけど私は実家出ちゃってるし、やっぱり思っている以上に私達も会ってないから……………どうなんだろうね?前よりかはずーっと立ち直ってるとは思うけど、私は私で英里じゃないから」 「まあそう言う事なんじゃね?だって俺も英里ちゃんと会うの、祐介のお別れ会で集まって以来だし、残念ながら解らない事は理沙にだって解らないんだよ……………なぁーんてそんな事ばかり考えているくらいなら、例えば大河も一人暮らしを始めるとかして、自分磨いたら?」 そしてそう言う事だった、俺の思っていた通りで2人の言う通り、俺がガキだからなんにも見えていなかったんじゃない、とにかくこうして本人がまだ来ていなかった事には、【恋】はどうにも展開してくれる筈がなかったんだ そんじゃあやっぱり待つだけだよ、酒を飲み飲み語らって、いやつーかそうやって何でも良いから語らっていないと、俺はまたまたネガティブな方向に転じてしまいそうで、平然と毅然を取り繕うように演じながら、ただ静かにって出来なかった 言うて俺がどうして誕生日が嫌いなのかを知っている佳樹が主宰だから、今夜がこうしていつまでも平々凡々つーか誕生日らしくない事には、驚きもしないし焦りもしないけど 有意義は有意義でも、このままではやっぱりどっかで楽しくないつーか、とにかく英里ちゃんが居ない事には盛り上がり切れなかった、対して本当は頭で考えているよりずーっと単純だった俺は、自分の【親友】と英里ちゃんの【親友】の手前、あんまし女々しくなれなかっただけ、女々しくなりたくなかっただけ 全ては自分の為だった、時には煙草に逃げたりしたけど、語る言葉はいつだって意図してポジティブな内容で、そいでもって俺はせめて暗くしちゃいけないなって、来る前も来てからもなるだけ明るくしていなくちゃって…………… 「一人暮らしはもうそろ始める予定だよ、7月だか8月の頭に夏の賞与が入ったらそれで始める予定、さすがに俺ももう24だからね、つーか今日から24だしね、まあだからって焦ってるとかそう言う事でもないけど、いつまでも実家暮らしってのもな、同級生の中には結婚をして子供が産まれたヤツだって居る中で、実家暮らしはぶっちゃけ少々ダサいじゃん?」 明るくて楽しくて盛り上がれそうな話題を、だからってまさか自分の事から離れ過ぎてしまう事もないように なぁーに、昨日の夜と比べたら難しい事などなにもなかったんだ、だって本音を並べるにも建前を述べるにも、全部が全部日本語で俺達は繋がれたんだから、理解し合えたんだから 気持ちの問題さえ取り除いてしまえば、みんなで盛り上がる事くらい簡単だった…………… 「マジで!?あっ、お前んところの親戚か?」 「いやアイツんところはまだだよ、まだつーか結婚はしてるけど、子供が産まれたってば祐也んとこ!男の子だってさ!」 「祐也ってあの金城祐也だべ!?お前それマジかよ、てかアイツの場合はよく結婚なんて出来たな、アレからまだ何年も経ってなくね?」 「それな……………だけどさすがの行動力だぜ、この前久しぶりに会って一緒に飲んだんだけど、祐也もすっかり父親だったよ」 「アレって?」 「アレはアレだよ気にすんな、俺ら地元の最大の秘密、悪いけどこれは墓まで持ってくよ、にしてもそっかあの祐也がな……………人生解らないもんだね、じゃあ祐也もギャンブルからは足を洗ったんだ?」 「それがそうでもないんだよ、まあでも昔よかは落ち着いてるのは確かだぜ?決められた小遣いの中できちんと遣り繰りしてるみたい」 「なるほどねぇ、人は変われるもんだ」 「だな……………ちなみに変われると言えば、いや変わったのかどうかは知らないけど、いつだかお前ん家のプレステを破壊した正彦も、今や女とイチャイチャ暮らしてるよ、って、これは前に言ったっけ?」 なぁーに、まとも考え込むまでもなく今夜は話題ならあったから、円滑にそんで盛大に、理沙ちゃんにはぶっちゃけ少し申し訳なかったりもしたんだけど、英里ちゃんがただただ恋しいばかりで、退屈とは無縁だったんだ…………… 「正彦の事は確かチラっと聞いた記憶があるけど、そうだよ思い出したよあの野郎!もう少しで裏ボスも凌げただろう俺のデータを!大河も10の大変さは知ってるだろ!?」 「訓練所と雷避けとブリッツボール、懐かしいなぁ、思い出で同時にトラウマだぜ」 「大河君もゲームするの?」 「FF10とキンハーは好きでやってたよ、それ以外はサッパリだけど、いや大乱もやったかな」 「大乱!スマブラの略し方な!」 「とりま祐也のシークが強かった……………」 「大河なんだっけ?」 「ファルコ!お前はドクターマリオだよね!」 「なんだかんだ2人はゲーマーなんじゃん、じゃあ大河君も最近なにかやってるの?」 「いやいや俺は違うよ理沙ちゃん、今のは全部もう何年も前のお話で、最近はまるっきりなんだ、スマホのアプリでも遊んでないし」 「だけど大河、一人暮らしを始めるならゲームはあった方が良いぞ?実際問題想像以上に退屈だから、てかお前も【龍が如く6】のコマーシャル見て、欲しいかもとか言ってたじゃん」 「タケシと宮迫と小栗旬と、それから藤原竜也と真木よう子だっけ?そこら辺の再現度の高さが気になっただけだよ、つーかYouTubeでシナリオ全部観ちゃったし、今さらいらないよ」 「夢がねぇな、観るのとやるのじゃ全然違うのに、その考え方は少しもったいないよ大河」 「つーかもっと現実的なお話がさ、【PS4】でも例えば【Switch】でも、ぶっちゃけ安くはない訳じゃん?だからってもちろん手が出せないほどとは言わないけど、慌てて欲しいとは思えないよ、まあ仮にこれで例えば英里ちゃんもゲーマーとかって言うんなら、後学の為に俺もゲーマーになるんだろうけどな」 「そう言う事なら今のままでも全然大丈夫だよ、私もそうだし英里もそうだけど、マンガとかアニメとかゲームとか、そう言うサブカル全般にとにかく疎いんで、強いて言うなら矢沢あいだけ押さえとけば大丈夫!」 「ちなみに【NANA】なら俺も好きだよ、高校ん時に付き合ってた元カノに借りて全部読んだから、言うて【パラキス】とかは知らないけど」 「【NANA】の良さを理解していればもう全然大丈夫、えっ、ちなみにその話したら後でめっちゃ盛り上がると思うけど、大河君あの中でなら誰が好きだった?」 「レイラさんとタクミ以外……………でも自分でも不思議だよな、前はナナの方が綺麗で好きだったのに、最近YouTubeでアニメ版観たらハチの方がずーっと可愛く思えてさ、人の好みなんてのは年齢と共に変化するのかなって、ちなみにタクミも前ほど嫌じゃなかった」 「ハチは主人公だからギリギリ許されてるだけで、実際問題かなりヤバい女だからね、まあでもその点英里なら大丈夫だよ!あの子は病的に一途だし、例えばやっぱり【NANA】なら、英里はヤスの事ばっかりだったし、私は単純にノブみたいなのが好きだけどなぁ」 「じゃあ気が合うってのはあながち本当かもな、ヤスばっかりは男が惚れる男だよ、言うて蓮の事もかなりカッコいいとか思ってたけど」 「【NANA】と言えばお前のお姉ちゃんも奈々じゃなかったっけ?えっ?なんか暇で久しぶりに聞いちゃったけど、そっちの方はあれからちゃんと片付いたのか?」 「へぇー!大河君ってお姉ちゃん居たんだ!」 「バーカ!佳樹お前それだけは止めろ、アレはもうお姉ちゃんなんかじゃねぇよ……………」 「えっ?なになに?急に女の匂いするよ?」 「いや……………別にそう言うんじゃないんだけど、とにかく!せめて今夜くらいはその話は止めよう!そう言えばあの女も今日が誕生日なんじゃんとか間違って思い出しちゃったら、マジ次の瞬間に闇だからさ!あっ……………」 しかし佳樹がバカだった、そんでもって俺もバカだった、ほんのこれっぽっちだってこんなつもりじゃなかったのに、すっとどんな事に対しても基本は熱くなるべからずって? でもこうなっちゃうともう遅い、それはそれは何よりもしたくないお話だった、だけどこうして理沙ちゃんにウッカリ興味を持たれてしまった今、弁解出来なきゃ【恋】に触る この子は英里ちゃんの【親友】なんだ、他の誰よりも敵に回しちゃいけないんだ…………… 「まっ、ご近所屈指の美人さんとでも言っておくよ、単なる女友達、そんでもってたまたま今日が誕生日ってだけ、女の匂いなんて全然しない!ただそんだけの事だよ、佳樹?」 「そっ、そうだね、だいたいそんな感じ!」 でもそうやってバカはバカでも、一度でも色々と察してくれれば佳樹は空気を読んでくれたから、コイツはさすがに【親友】つーか、相棒つーか居場所つーか だけど佳樹には【彼女】で、そんでもって俺には【好き】な人の【親友】の理沙ちゃん、誤魔化そうにも理解してもらうに、ましてややっぱりお酒の席だ、当然容易い事ではなかったんだ 「言いたくないなら無理に聞こうとはしないけど、もしもなんらかのトラブルを今抱えているんだとして、その事が先々英里の事を傷付ける可能性があるなら、悪いけど英里の事はオススメ出来ないよ?「彼氏なんてこの先一生いらない!」って泣きじゃくってた、本気で死ぬ事も考えてた、そんな英里にここまで回復してもらう事がどれだけ大変な事だったか、挑戦と配慮の連続だった……………その事を解ってくれると言うのなら、これ以上英里に近付く前に全部綺麗に片付けてきて!」 それにしたってこんなの最悪だぜ、だってほんのちょっと前まではあんなにも朗らかとしていて楽しい時間が流れていたのに、理沙ちゃんってばハイボールのジョッキを片手に、なんなら佳樹にも少し怒っているみたいだった 「片付いているよ……………そこは全然心配ないから理沙ちゃんもどうか安心してね、ただ俺もそうだしきっと英里ちゃんも同じ事を思っていると思うんだけど、時間が癒してくれるキズとそうでないキズってやっぱりあるから、だから心配してくれるのは素直にありがたいけど、そこは逆に理解して……………言うて今では言えない秘密じゃないけど、出来る事なら言いたくないんだ、ましてや誕生日の夜くらい勘弁、それでもって言うんなら俺も別に口止めはしないから、今度ゆっくり佳樹から聞いてよ」 「とにかく今じゃないんだ理沙、言うて吹っ掛けちゃったのは俺だからそこは素直に謝るけど、とりあえず一度でも始まっちゃったらめちゃくちゃ長くなるのは確実で、せっかくの誕生日どころではなくなっちゃうからさ」 「だから私も別に無理なら良いよって言ったし、英里が傷付く可能性があるなら嫌だなってただそれだけの事だから、2人を不快にさせてまで聞き出そうとは思ってないけど……………だけどそう言う言い方をされたらやっぱり気になるよ!だってそう言えば2人の恋愛遍歴とか私も全然知らないし、英里が来る前にコッソリ教えてよ、ねえ良いでしょう?今夜は無礼講!」 それにしたって女ってば生き物は、どうしてこうも【恋】にまつわるゴシップが、みんなして好きなんだろうか 一難去ってなんとやら、上手い具合に理解が得られたところで、気は抜けなかった…………… 「恋愛遍歴ってば?つまり今までに付き合った人数を知りたいの?それとも経験人数の事を言っているの?」 「えっ、大河君そこイコールじゃないの?」 「えっ、逆にみんなはイコールなの?今夜は無礼講なんだろ?ここは包み隠さず行こうぜ?」 こうなりゃこっちも自棄だった、これでもしも先々また「本当にそれだけなの?」なんて、女の第六感なら全開に詰められたらその方が面倒 そればかりかまさかそんなタイミングで英里ちゃんが来てしまったら、今度こそきっとシャレじゃない、俺も理沙ちゃんもきっと引くに引けなくなってしまう、つまり【恋】に悪影響だ そんな事にもしもなってしまうくらいなら、その無礼講がどうでって提案、例えば佳樹が紅くなっても、即乗っかるまでだった…………… 「まあね、今度の言い出しっぺは残念ながら私だからね……………付き合ったのは5人目!経験人数は7人くらいって事にしといて!」 「なぁーんだ、それでちゃっかり遊んでたんじゃない、ちなみにその差の2人ってば?」 「おいおい大河……………」 「まあまあ別に良いじゃんか、そもそも今夜は誰の誕生日だ?えっ?誰の誕生日?」 「はいはい……………言うて俺は聞いたし」 「まあだからほらなんだろう、専門の時の飲み会で、記憶が飛ぶまで飲んじゃって、気が付いたら彼氏でもなんでもない男友達の家で目を覚ました的な?それともう1人の方は一瞬だけ働いてたガルバの時のお客さん、つまりどっちもお酒の失敗だよ、一番の黒歴史、大河君は?」 「そんなエピソードの次だとまあ可愛いお話だね、ちゃんと付き合ったのは2人、すっかり遊ばれていたのが1人、逆レイプが1人、貴重な初めては顔も名前も知らない人だった」 「なにそれ全然可愛くないじゃん!えっ、逆レイプってばつまり襲われたって事だよね?大河君が!?まさかそんな事ってあるの!?」 「それがあったんだから仕方がないだろ?まったく困ったもんだよな、当時も好きな人が居たんだぜ?それなのにまるで容赦のない女豹みたいな女で……………って!まあ言ってしまえば俺のもお酒の失敗と大差ないよ」 「酔っ払ってたんだ、じゃあ比較的最近?」 「そう言う訳でもないけど……………って、いや待てよ、今日が俺の誕生日って事は、ピッタリ8年前の今日じゃねぇか!まーた変な事を思い出しちゃったよ」 「アハハハッ!それって軽く悲劇じゃん!お誕生日にそれはヤバい!で、話は変わるんだけど、その時に好きだった人とはその後どうなったの?ちゃんと付き合えた?」 「まあ一応ね、言うて半年も続かなかったような気がするけど、今思い出してみてもどっかのハーフで綺麗な子だったなぁ、他に好きな人が出来ちゃったって捨てられた時は、マジ壮絶にヘコんだもの」 「大河しばらく食らってたもんな、でも次ってなったら早かったじゃん、ほら1つ上の」 「へぇ!なんだか青春って感じだね!」 「確かに、青春と言えばあれが青春だったのかも知れないよな……………あの頃もうどうしようもなくボロボロだった、俺の骨を拾ってくれるかのようにそっと優しくしてくれた先輩が居てさ、それはバイト先の人だったんだけど、なんだか急にとっても可愛く見えちゃって、今になって思い出してみればあの頃が一番幸せだった気がするよ……………でもあの当時はあんまり大切にしてあげられなかった、若気の至りで済ませて良いのか解らないけど、とにかくあの頃は1人の女とずーっと一緒に居るよりも男友達とバカやってた方が楽しくて、その子とは今友達なだけにちょっと後悔してるかな、ああてか当然英里ちゃんには内緒だぜ?」 「なるほどねぇ……………ああもちろん!」 「でもそうなると英里ちゃんって本当に健全と言うか、誰よりも一途な【恋】をしていたんだね、だって凄いじゃん、1人の人と何年って言ったっけ?大河なんか2人合わせて1年未満なのに、でも逆によっぽどだよな」 「お前は全然人の事言えんだろ」 「まあそうだけどさ……………だけどやっぱり凄いよ、そこそこモテてたって話なのに遊んでいたとは聞かなくて……………こりゃあ半端な【好き】じゃねぇぜ?」 「だからその分だけ心の傷も深いの、解ってる?大河君!そんなに強い人間じゃないよ?」 「それを言ってしまったら俺だってそんなに強い人間じゃないよ、でもちょっと自信はあるかな、これでも痛みの吹き溜まりみたいなところに長い間俺も居たんで、解ってあげられない事も受け止めてあげられない事も俺にはないと思ってる、だってまさか英里ちゃんに限って前のとちゃんと切れてないとか、いきなり隠し子が現れたりなんかしないだろ?」 「いやいや大河君それは冗談!さすがに私のお友達を悪く言い過ぎだよ?英里はそんな子じゃないって、と言うか普通に私だってそんなヤバそうなヤツとなんか付き合いないし!」 「それを聞いて安心したよ……………」 「それを言うならこちらこそ、大切にしなかった事を後悔出来るような人なら私も安心」 「そりゃあ良かった……………」 「それにしてもやっぱり正解だったよ、あの鍋の日も本当は英里ってば嫌がっていたんだ、でも無理に連れて行って正解だったよ、これからもひとつよろしくお願いします……………」 そして無事に解ってもらえたのなら、再び上手い具合に穏やかな時間は流れ始めて…………… やたらめったらガツガツしていて、そいでもって単にゴシップが好きなだけ、理沙ちゃんもまたきっと心の綺麗な女の子だった しかしそれはきっと普通にそうだったんだけど、俺が会いたかったのは英里ちゃん、お話したかったのも一緒に笑いたかったのもやっぱり英里ちゃんなんだ、それなのにそんな英里ちゃんだけが来ないまま、今夜もあっという間に最初の乾杯から30分が だからって例えば飲み食いにお喋り、この辺りがまさか滞ってしまう事はなかったけど、こんなにも嬉しい事をいっぱい言ってもらえていながら、にも関わらずいつまでも本人に会えないなんて焦らしで苛め 言うてきっと英里ちゃんにそんなつもりはないんだろうけど、楽しいだけではそろそろ耐えられず、無礼講故の追及の切れ目を器用に狙うように、俺はひとり煙草に逃げたんだ……………
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