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にしても今のあの顔はなんだったんだろう?
やっと英里ちゃんが来てくれた、やっと久しぶりの英里ちゃんに会えた、それはそれはどうしようもなく嬉しい事に決まっていた筈で、そんでもって今からさっそくソワソワしちゃうくらい、本当に改まるまでもなく嬉しかったんだけど、疑問つーか不安つーか、つまり俺の心が晴れてくれる事はなかったんだ
だって意味が解らないんだもん、意味が解らな過ぎてぶっちゃけ泣きたいくらいで、すっかり暮れてしまっていた街に揺れる煙草の青白い煙は、まるで行き先の解らない俺の心を投影していたかのようで、不安げで寂しげで
でもそうなんだよ、解らないんだよ、だって泣くような事ってなくない?いやなかった筈だよね?俺の誕生日の集まりにただちょっと出遅れてしまっただけ、泣くような事じゃないよね?
それがどうして英里ちゃんはあんな顔をしていたんだ?つーかしたんだ?花粉とワサビと突き指に同時多発的に襲われましたみたいな
だからってそりゃあもちろん、号泣していたとまでは言わないけどさ、でもとにかく涙を流すような場面ではなかった筈なんだよ……………
それでも強いて思い浮かんだつーか、頑張れば思い当たれた涙の理由は大きく2つ……………
1つは全部聞いちゃって、ついさっきまで盛り上がっていた、英里ちゃんが居たら出来なかったお話のその全てを、今まさに中に入ろうと思ったその時、外でついつい聞いちゃって?
いやだとしたらきっと号泣、もしくは帰っているか、下手すりゃ今ごろ理沙ちゃんと中で喧嘩になっている事だろう
だって多分英里ちゃんが俺や佳樹には聞かれたくなかっただろう事も、理沙ちゃんってば勢いでまあまあ喋っちゃったんだし、でも中からは相変わらず賑やかなりに平和そうな雰囲気が外にも漂って来ていたから、それはこの際ないとして
じゃあまさか俺にその気があって?色々なトラウマや痛みをその心に宿しながらも、英里ちゃんも俺の事を次の【恋】の宛てとして見ていて
つまりそんな俺の誕生日会に寝坊からの遅刻なんて、「どうしよう?」、「困ったな」って、後悔からの自責の念で思わず涙が?
いやでもそれってどうですか?もしもそうだと仮定して早くも舞い上がったりなんかしたら、なんだかまたまた勘違い臭くない?
もしも勘違いでもなかったとするのなら、こんなにも最高な事って他にはないけど……………
やっぱしそうとは思えないよ、だってその根拠つーかその証拠じゃないけどさ、そいじゃあ祐介のお別れ会を最後に会えていなかった1ヶ月弱、英里ちゃんも俺と同じくらいに辛かったって事なの?俺が英里ちゃんに対して密かにずーっと思っていたように、英里ちゃんも俺に会いたいって思ってくれていたって事なの?
いやいや、さすがにそれはない、だって1ヶ月だぜ?つまり1年の12分の1、その間俺が英里ちゃんの事を誘ったのは3回、ウチ1回は突然だった事と機種変かなんかが重なってどうにも出来なかったからとして、俺ってばなにげ横須賀には来ていたかんね?
それでも会えなかったんだぞ?例えばガッツリとかじゃなかったとしても、例えば小1時間とかだけでも、真面目な英里ちゃんの事だからもしも俺に対してその気があるんなら、きっと時間を作ったんじゃないのか?
時間を作ってくれたんじゃないのか?
しかし実際にはそんな事有らず、俺は遂にサシでは一度も会えないまま、今夜の誕生日を迎えてしまった
だから例えば冗談でもまだまだ自惚れる事など出来ない、傲り昂る事など出来ない、例えばついちょっと前までラインがテンポ良く続いていたくらいでは、まさかそんな風に思う事なんて俺にはやっぱりまだ出来ないよ
じゃあさっきのあの顔には一体どんな理由が?
考えたって解らなかった、だから俺は煙草を2本も吸ったところでこの際考える事は止めた
どうせ答えなんか見付からないのに、そんな事ばかりをしていたらせっかくの貴重な時間がもったいない、だったら俺は少しでも早く、そいでもって少しでも長く英里ちゃんを感じていたいから、英里ちゃんの近くに居たいから
敢えて欲目を追う事で、俺は不安や迷いの類いを今こそ払拭した、つーよりもしかしたらどうにか誤魔化しただけだったのかも知れないけど
でも残念ながら時間はどうしても有限だから、なるだけ無駄にはしたくないなって、最後に後悔だけは絶対にしたくないなって……………
「ふぅぅぅ……………」
ちなみに今夜は俺の誕生日で、そいでもって俺の為の集まりだったんですが、突然で必然だった緊張感をスッ飛ばさんと、まあまあ大きなため息にも似た深呼吸を最後に1つ……………
《ガラガラガラガラ……………》
まあとりあえず、楽に行こう……………
涼しい顔を意識しながら、余裕な表情を意識しながら、心に繰り返し言い聞かせながら、俺はゆっくりと扉を開いていざ臨んだ……………
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「本当にごめんね大河君!今日は大河君のお誕生日なのに、私ったらちょっとのお昼寝のつもりが、ついウッカリ寝過ごしちゃって、えっ、てかその髪の毛どうしたの!?」
しかしそうしていざ中に戻ってみれば、なんとそこに居たのは、もとい俺の席のとなりの席に居たのは、すっかり笑顔炸裂の大好きな英里ちゃんだったんだ
「あっ、ちなみに主役も寝坊からの遅刻だったんでお気遣いなく!つーかなんだっけ、俺の髪の毛がどうしたかって?それはまあ勢いつーか若気の至りつーか、自分的にはまあまあ似合ってると思うんだけど、ぶっちゃけどう?」
だから俺も気になるその全てをこの際確かめようとは思わなかった、確かめられないだけでやっぱり気になり続けるけど、だけどそれでもとりあえず今をみんなで楽しめるんなら、きっと野暮な事は言わないようにしようって!
そんな事をついついしてしまうくらいなら、何を言ってもどうせ「ごめんなさい」とかって、ひたすら気を使うんだろうそんな英里ちゃんが、少しでも心を楽に過ごせますように、なるだけ俺の方から明るく仲良く元気良く!
こうして主役が張り切らざるを得ない誕生日会ってば、我ながら「それってどうなの?」って、ぶっちゃけ少しは変にも思った俺だけど、だけどもう止まれないほど【恋】をしちゃっていたんだから仕方がない!
つーかぶっちゃけ真っ赤な髪なら、超絶とまでは言わないけれどちゃっかり似合ってるとか、自分なりに思ってたしね
それにさっきのお話じゃないけど、間違っても素人童貞だなんて残念な勘違いをされてしまわないように、正解なんて解らないながらに俺は堂々と在り続けた
「うーん……………私はアリだと思うけど、そんなに赤くして会社とかで怒られないの?だって今どきそんなに真っ赤な人って、YouTubeやってる人とかコスプレやってる人くらいだよ?」
しかしこれは調子に乗り過ぎたかな?そんでもって困らせたかな?そこはさすがに英里ちゃんで誉めるでもなく貶すでもなく
だからってここでまたまた考え込んだところで、きっとたちまち会話が終わってしまうだけだったし、それなら俺はこの勢いにもう任せてしまうに限ったんだ
「それな、ああでも会社なら全然大丈夫だったよ、結局は俺んところの社長さんが友達の親だからなのか、甘いつーか優しいつーか、とりま社会人生活に差し支えはない感じで!」
「なるほどね!それを聞いたら私も納得だよ、ぶっちゃけ会社とか大丈夫なのかなって、ひと目見た時からそう思ってた!」
するとそこへナイスなアシスト!もしくは理沙ちゃんの場合は早くも酔ってたまであるけど、しかしそこはさすがに俺の髪なら通り越しても、俺と英里ちゃんの事をアリだと思うと言ってくれた、そんな理沙ちゃん
これは助かるなんてもんじゃなかった、でも強いて注文をしても良かったんだとするのなら、そろそろ今日と言うこの時間を、俺の誕生日会として展開して行って欲しいなって……………
でないと英里ちゃんとはまだ乾杯すら出来ていなかったんだし、言うて英里ちゃんもお酒を飲んでくれるのかは直前まで解らなかったけど、しかしどこかで一度仕切り直してくれない事には、英里ちゃんもきっと心のどこかで落ち着けなかったんだろうし
でもだからって俺が動くのも今夜はきっと違うじゃん?だって俺が下手にハキハキ動いてみ?英里ちゃんの事だからきっとまたまた気を張っちゃって、そんでもって無意味に心を疲れさせてしまうだろう
俺にはそんな未来が見えていた、だからあくまでも願うだけの望むだけ、例えば飲んでいたお酒が無くなってしまったとしても、ここは頑張ってなんにもしなかったんだ……………
「あっ……………てかとりあえずもう一回乾杯しよっか、これで全員揃った事だし、英里ちゃんは最初なにを飲む?」
しかしこんな時には佳樹が居てくれた、俺の方からいちいち頼み込むまでもなく、いつだって今夜だって俺の気持ちを汲んでくれた、最高の【親友】が俺には居て
もしも俺が主役じゃなかったら、きっと俺が言わなきゃいけなかったような事は、どこかのタイミングでふと気が付くなり、今夜は全部佳樹が言ってくれたしやってくれたんだ……………
「あっ、そうしたら私はハイボールにしようかな、気持ち薄めに作ってもらって……………てかごめんね大河君、私ビールが苦手なんだ」
「ううん!そんなの全然気にしないで!こうしてみんなが集まってくれただけでも俺は十分嬉しいんだから、今夜は気楽に行こうよ!」
すると英里ちゃんってば、いちいち丁寧からの低姿勢で可愛いったら困っちゃう、「わざとだよ?」みたいな上目遣いに俺は死にそうだった
しかし何にしてもだ、こんな時にはベストなフォローを入れてあげなきゃなのは、きっと絶対に俺の役目だったから、気合いを入れて平然と、もちろんいちいちキョドったりなんかしない
大きく大きく笑いかけて、俺の不安と一緒に英里ちゃんの心の荷物もスッ飛びますように、そして俺達はお酒の到着を待った……………
そして……………
「じゃあ大河!誕生日おめでとう!!!!!」
《カッチャアァァァァァン……………》
佳樹が音頭を取ってくれて、もちろんみんなが笑顔で、ゴングのような鐘祝のように、重ね合わせたグラスの音は心に響き渡った……………
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