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そして訪れた幸せな時間、待ちに待った待望の瞬間、夢のような優しくて甘い時間……………
改めてどうしようもなく【好き】過ぎる、だからってみんなも居れば見惚れてばかりではいられなかったけれど、肩まで伸びた艶やかな黒い髪も、透明感と暖かみのある子供みたいな肌も頬も、曇りと濁りは1つと認められない宝石みたいに綺麗な瞳も、全部欲し過ぎて堪らない
しかも性格ならきっとまさしく品行方正?それこそやっぱり【夜】みたいな危なっかしさも英里ちゃんにはなかったんだから、もしもそんな英里ちゃんと先々付き合う事が出来たのなら、その時は幸せの極みで俺は昇天しちゃうかも
なぁーんて、純粋に思ってたりして、つーか思わされていたりして、でもだからってボーッとしていても残念ながら【恋】は出来ない、【彼女】は出来ないんだから、これが改めて悩ましい事で、結局は同時に難しい事だったんだけど
考えたって解らない事は、この際気張って考えない、ここへ来てそんなメンタルを守る為の術を会得し得ていた俺は、やっぱしどっかでソワソワしながら一生懸命に話題を探すって事もなく、だからって例えば飲み食いのそればかりに、ある種没頭してしまうのでもなくて
強いて何をしたかって、こうなりゃ周りに委ねたんだ、この【恋】を丸投げするように雑をしてしまうのではなく、ニュアンス的には「つーか誕プレは?」みたいな
もちろんそんな気持ちを言葉にするような事もないけど、とにかく今夜は俺が主役なんだ、だから少しくらい自らもてなされようとしたって、「それは間違いではないだろう?」って
まあそれも言葉にはしないけどさ、乾杯からの自然に始まった他愛のないお喋りに対して、そんじゃあバカになってしゃしゃり散らかす訳でもなく、かと言ってまさか空気になってしまう事もなく、もちろん総じて英里ちゃんが困ってしまわない程度に今夜はドンッと構えていようかなって
敢えて引き続き欲目を追う事で、俺は落ち着きのある大人の男を演じようとしていた、言ってしまえば格好を付けようとしていた……………
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「あっ、そうそうこれ!私からのささやかな誕生日プレゼント!良かったら使って大河君!」
しかしそこはさすがに俺の誕生日、言うてついちょっと前までは年間を通して一番嫌いな日だったけど、それでも今夜は俺の誕生日会
焦がれるほどに待ちわびるまでもなく、もちろんこちらからの催促の必要もなく、サラッと当たり前の事みたいに、こう言う展開になってくれちゃう訳で
ただトップバッターがここでまさかの英里ちゃん、まあ言うて理沙ちゃんが最初つーのもやっぱし変だし、佳樹はどうせここのお会計で済ませようと思っている事だろうから、これもまた突然の事にしてきっと必然だったんだけど
でもこれがやっぱりシンプルに嬉しくてさ、だからってキョドるとかロックじゃねぇし、ただそれでもこの時ばかりはいよいよ緊張感がエグくて
遂にはある種屈するように、どうしようもなくニタニタと緩んだ笑顔を隠す事も俺には出来ないまま、見たところどっかの百貨店の紙袋だろう、それを両手で恐る恐る大切そうに、しっかりと英里ちゃんから受け取った……………
「えーっ!?本当に!?マジでめっちゃ嬉しいんだけど、ちなみにさっそく見ても良い?」
本当は気が狂いそうなくらいだった、嬉しくてどうにかなりそうだった、でもだからこそどこまでも嘘のないリアクションしかする事の出来なかった俺は、いやそんな俺に素直になれたからこそ、もはや考えないんじゃなくて考えるとか出来なくて、駆け引きもなんにもなくて
それはまるで子供のように、これではまるで初恋みたいに、自分でもぶっちゃけ焦るほど何より当たり前の事みたいに
俺がそうだったからなのか?自らプレゼントをくれたにしては、なんだか照れ臭そうな可愛い可愛い英里ちゃんに対して、サラッとズバッとスムーズに、俺はそんな事を聞き返していた
「もちろん!あっ、だけど本当にたいした物じゃないのよ?ただほら大河君は運転手だって聞いたから、クッションとかに良いかなって」
「マジで!?そりゃ助かる!長いと日に300キロとか運転する事もあるからさ、この歳で早くも腰がしんどい時とかあって……………えっ、でもこれ……………本当にもらって良いの?」
しかしそうやって朗らかつーかにこやかつーか、初々しいほど隠せなかったデレデレしちゃった心と顔で、極めて幸せな会話を頻りに展開しつつ、いざそっと取り出してみれば
やっぱし動揺は禁じ得なかった、申し訳ないほど目を疑うしかなかった、そんでもってもちろん堪らなく嬉しい筈が、我ながら野暮な事を問い掛けずにはいられなかったんだ……………
だって……………
「大河君もファンなんでしょ?その髪じゃもう誤魔化せないよ……………あっ、するともしかして既に持ってたとか!?」
お察しの通り、そんでもってたった今言われてしまった通り、職業ドライバーの俺を思って英里ちゃんが用意してくれた誕生日プレゼントは、単なるクッションに有らず
イエローハートのクッションだった、自作をするかレモネードショップでしか手に入らない、hideさんと言えばイエローハートのクッションだったんだ
「いや!これは持ってなかった!ありがと!」
ただマジに持っていた訳ではないから、俺はこれ以上英里ちゃんを困らせてしまわない為にも、まずはそこだけはきっちり否定をしたんだけど、しかしそれにしたってイエローハート、まさか英里ちゃんからhideさんに関する物を、今回プレゼントしてもらえるなんて……………
夢にしか思えなかった、しかもとびきり嘘みたいに最高な夢、冗談でなきゃ逆に困ってしまうくらい、幸せな夢にしか思えなかったんだ
感激過ぎて意味不明で、脳ミソが溶けてしまいそう、だってこれでもしも全てが現実の事だったとするのなら、俺もいよいよ調子に乗っちゃうぜ?今度こそはと光の速度で舞い上がるよ?
だけどこれが夢じゃなかったら逆になんだよ?
俺にとってhideさんはヒーローだ、カリスマで憧れで心の拠り所だ、でも英里ちゃんにとってのhideさんは、仮に好きだったとしてもきっとトラウマの一部、それなのにまさか俺を想ってイエローハート!?
嬉しくって恐かった、まるでドッキリでしかない、それでも俺は確かに一般人の筈なんだけど、なんだかこんな一部始終を全部撮られてそうで、そんでもってワイプの先のダウンタウンが手を叩いて笑っていそうで、キョドらないとかもう無理だよ!
とにかく震えが止まらなかった、動悸からの息切れで命の母とか欲しかった、しかし幸か不幸かこれはまるごと現実の出来事だったらしい
これでもサシではなくて、英里ちゃんはまだ俺の【彼女】じゃなくて、そんでもって佳樹と理沙ちゃんが今まさにそんな俺に注目していたのが証拠
そんな2人の視線が現実と気付かせてくれたのだ、一緒になって嬉しそうな、なんなら俺よか楽しそうな、2人の視線が理性を呼び起こしてくれたんだ
でもこんな時の理性には、理性イコールある種の羞恥心みたいなところがあって……………
「いやマジでこれはヤバい!わざわざレモショまで行ってくれたの!?嬉し過ぎて泣きそうなんだが!連休明けからさっそく使うねっ!」
俺は我ながらあたふたしていた、つーかあたふたしてしまった、だってとにかく何でも良いから感謝と感激を表現しなくちゃって、焦らずにはいられなくって
これではまるで童貞だった、童貞みたいに見られたくないから「喋らなきゃ!」って思った時点で、お手本みたいな童貞だった
だけど止まれない、童貞じゃないのに止まれなかった、とにかく頭の中がグルグルしちゃってて、そんでもってまずは英里ちゃんに気を使わせたくない一心で、ベラベラと喋り散らかせば散らかした分だけきっとダサくてどうしょもないのに、静かになってしまったら多分感激で泣いてしまうから
理性が感情を走らせる、感情が理性を困らせる、これではもはや「君が好きだ」と、言っちゃっているのと大差はなかった事だろう
だけどどうにも止まれないんだ、それこそ飲み食いなんかしている場合ではない……………
でも……………
「アハハハッ!大河君ってやっぱり面白いよね!まるで必死になっておねしょの言い訳をしている小学生みたいで可愛い、一緒に居ると癒されるよ、喜んでくれてありがとっ!」
これがウケた、しかも英里ちゃんにウケたんだ
言うて例え方がこの上なく酷くダサくて、いよいよどうしようもないほど髪より紅な俺だったけど、そんでもって当然狙った訳でもないのに、英里ちゃんにめちゃめちゃウケたんだ!
「たなぼた」とはきっとこの事……………
「ちょっと!確かにファンな俺だから堪らなく嬉しくって、そいでもってこう言うリアクションになっちゃっただけで、英里ちゃん!その例え方は酷いよ!俺今日で24だよ?」
つーかどうせ2枚目キャラは厳しい俺だ、だったら多少は3枚目風でも、英里ちゃんにとっての癒しキャラになれたのなら、いつか【彼氏】になれるかも知れない
いかんせん難しい【恋】だった、これで英里ちゃんが例えば遥みたいなタイプの女の子なら、佳樹にも理沙ちゃんにもさっさと消えてもらって、肩でも組みながらさっそく2軒目だったんだろうけど、しかし多分それは悪手だったから、遠回りでも慎重に
まずは確実に仲を深める方向で……………
「ちょっと英里ってば!いくら大河君は優しいからって、今のそれは失礼なんじゃないの?えっ、ちなみに最後のおねしょは何歳の時だった?今夜は無礼講だよ大河君!」
「はぁぁぁ!?そんじゃあ俺から時計回りな!嘘は厳しく取り締まるぜ!?ちなみに俺はマジ小5!はいっ!次は理沙ちゃんだかんな!」
なんだか間違っている気もしたけど……………
でも今はきっと、これで良いんだ……………
照れ臭そうに嬉しそうな英里ちゃんのとなりから、照れ臭いほど嬉しくて、泣かない為にもシャレじゃないほど全力でニタニタしながら、いつか大人の男として認めてもらう為に、俺はついつい気取りたくなる感情を理性で抑えながら、まずは親しげな子供を演じた……………
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