9-93『それでも想い続ける夜』

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21:55 それから20分も耐え難い沈黙が流れるも、やはり雨の中でのしかも平日では相変わらずに客足はさっぱり しかしまもなく奈々が上手い事呼び出す事に成功をしていた熊さんが、梅雨らしい冷たい雨すら跳ね退ける様に、颯爽といつものややヘラヘラとした具合でやって来てくれた…………… 「やっほー熊ちゃん!ほら大河だよ大河!てか2人はとっても久しぶりなんじゃなぁい?」 そうして熊さんがおもむろに大河の隣に腰を降ろすなり、奈々は超絶怒涛の明るさを持ってそんな熊さんに自発的にたくさん話し掛けた それも当然、こうして奈々が数多のお客さん達の中から熊さんを選び、そして来て欲しいと呼び掛けた事にはとても大きな理由があったのだ まず熊さんはC.E.Oのメンバーにて、イコール大河ともいい加減に長い付き合い、だからこうしたウンザリするくらいの沈黙の中に、敢えてそんな熊さんを導入すれば、きっと自動的に大河と2人だけでも十分に盛り上がれる筈だと判断、まもなくこうなるに至っていた それに熊さんは50代にして童貞と言う、可哀想な話がここまで来ると少々珍しい域の非モテ男で、そうなるとやはり四六時中ムラムラしては止まらないのだろう、だから熊さんくらい奈々の得意な下ネタに面白いくらいに食い付く人材も他にはいなくて、つまりこれはある種の保険 万が一にも久しぶりの大河と熊さんで盛り上がれなかった場合には、例えば下ネタを連発しながら梓が来るまでの時間を凌ごうと言う寸法で、大河を帰すに帰せない状況下故に致し方なく打ち立てた、こうした奈々の作戦には最初から一切の抜かりもない…………… しかも奈々にとっては最大限に嬉しい展開がその直後に巻き起こる、どう言う事態が今の熊さんを苛めていたと言うのか、そんな事なら申し訳ないくらいにどうでも良かったのだが、熊さんの言う事にゃ大河との初動の乾杯を済ませるなり、今夜は下ネタばかりだった…………… 「セックス!セックス!セックスがしたいよぉ奈々さまぁ、死ぬ前に1回くらいは素人の女の子とセックスがしたい、それには一体全体どうしたら良いのであろうかぁ!!!!!」 おしっこの時とプロのお店でしか使う場所のない新古で初老のちんちんが、いい加減に疼いては止まらないのか、そこまで泥酔している風には見えないけれど、今夜の熊さんは初っぱなから下品や卑猥の域を超えている様子 聞けば熊さんはどうやら先週が誕生日だったらしく、それで焦りに拍車が掛かってしまったのだろう、同じ男として哀れでならない大河には、もはや苦笑いを見せる余裕もなくて、大河はいよいよ熊さんの目を見る事すら出来ない しかし奈々だけは当たり前の様に違ったのだ、そもそも堪らなく下品でもこの展開はある意味で待っていた展開だったんだから、お酒を片手に傍観姿勢の大河なんてこの際完全に放置で、奈々としてはそんな熊さんの相手を嬉しそうに買って出るまでだったのだ…………… 「うーん、そうねぇ、申し訳ないけど簡単な事ではないと思う、失礼だけどやっぱり年齢が年齢だからね、だけど努力の余地だったら熊ちゃんにはきっとたくさんあると思うよ?」 「どっ、努力の余地とは!?」 自分よりも圧倒的に歳下の女の子に、そんなにも露骨に上から目線で語られても相変わらずの態度だなんて、この人にはよもやのプライドすらないのか、同じ男として大河には甚だ疑問でしかなかった でも疑問は疑問のままで、これまた同じ男だからこそ突っ込みなんて可哀想で入れられない、ここまで来るといよいよ官能小説の読み聞かせも等しかったが、そんな大河はやはりそのまま顔色の1つとして変えないで、余儀なく耳を傾け続ける事を選んだ…………… 「そうね、ちなみに私は超絶毒舌だけど悪しからず、泣きそうになったら止めるから言ってね?オーケー?じゃあまずはその服装から変えなさい!一体それは誰のどんなチョイスで選んで着ているの?例えるなら秋葉原に行こうとしたオタク君が間違えて池袋に行ってしまい、その後あっという間にチーマーにオヤジ狩りをされたみたいな、ビックリするほどにダサ貧相な格好って言えば解る?ハッキリ言って清潔感が熊ちゃんには皆無なの!」 こうなったら奈々はこれにストレスの発散も兼ねた、それになにしろ熊さんはボロクソに言われてもむしろ喜んじゃうタイプの筋金入りの変態で、その事を知っている奈々に容赦はない 「清潔感……………ですか……………」 「そう清潔感!マジにそれって顔とか年収よりも多分重要な事だから!だから後何十年熊ちゃんが生きているのかなんて知らないけれど、一生覚えおいて損はない筈だよ!例えばスーツとか着てみたらどうなの?昼間はそうなんでしょ?だったら例えばこうしてちょっと飲みに出掛ける時とかでも、面倒でもスーツで出掛ける事を私はオススメするな、まずそれだけでちょっとは周りからの見方が変わる筈だよ!」 「おお!スーツですか御意っ!」 それにしてもやっぱりどちらも相変わらずなんだから、大河は以降も単なるお客さんの1人として、偶然居合わせたかの様に静かな傍観に徹する、徹するしかない…………… 「それからそれ!何を思って一言付け足しているのか私には甚だ理解不能なんだけど、時代劇か何かを熊ちゃんは意識しているのかしら?まあなんつーかその例えば今のその御意みたいな特殊な語尾を止めなさい、癖なら頑張って治してみて!申し訳ないけど女の子目線にやっぱりキモいだよね、それにそう言う文語ってなんだか無条件に堅苦しいんだ、利口にも見えないけど政治家みたいで、だからこれからは熊ちゃんも口語を意識的にね!つまりラフな感じのお喋りをもう少し器用にしてみなさいねって事!」 「ラフな感じのお喋り、はいっ!!!!!」 これではまるで先生と生徒、しかし奈々としては仕事をしながら言いたい放題でストレスの緩和を図れたんだから、これ以上の一石二鳥もやはり他にはなかったのだった……………
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