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冬の空は乾いていて、遠い。
空気の中の水分は全て凍って、雪の粒になって地面に落ちてしまった。幾度もそうして積もった月が大人の腰より高くなった。夏には、どこまでも響いていく音が、冬は雪に吸い込まれて消えていく。
だから、北国の冬はとても静かだ。
鳥の声も響かない。
ちゅん、と鳴いた声は、その場に留まって仲間のためだけの秘密の会話になる。長い冬を越えるために、おにぎりみたいに丸々として肥えた雀たちが、電線の上で身を寄せ合っている。
雀たちが見下ろしているのは、雪に埋もれた広い庭だった。夏の間は、見上げるように大きな木々が雪に埋もれて針葉樹のてっぺんだけを覗かせている。庭の横には、明るい赤い色をした屋根の小さなお家が建っていた。
カラカラと戸の開く音がする。
長靴でザクザクと雪を踏みしめながら、おじいさんがやって来た。
雪に埋もれた針葉樹の枝の一つに、針金で吊された底の浅い木箱がぶら下がっている。おじいさんは、その木箱の中に持ってきた袋の中身をあけた。
ざらざらという音と共に広がったのは、夏から秋にかけておじいさんが集めておいた植物の種や、拾っておいた木の実だ。この数年、おじいさんは冬になると欠かさずに鳥たちのための餌をやっている。そのために、冬の庭は賑やかだ。
雀の他にも色々な鳥がやって来て、時にはどこからともなく駆けてきたエゾリスが、木の実を抱えて去っていく。
静まりかえった北国の冬で、庭にだけ生き物の気配が溢れている。
やがて雪が溶けて消えるまでに繰り広げられる、束の間の命の宴。
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