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「水槽は本物の川や池ではありません」森本はオフィスに置かれた水槽から、部屋の主である山野加奈子に視線を転じた。「メダカにとって、それは唯一の現実です」 「メダカは気にしないとでも?」と山野。 「ええ。その虚構が心地良いものであれば」静かに頷いた森本は紅茶のカップをテーブル置いた。 「ですが、人間とメダカは違います。いくら心地良いものであったとしても、人間は虚構に対して違和感を抱くんじゃありませんか。そう……居心地の悪さみたいなものとでも言えばいいんでしょうか」 「人間ほど環境に適応する動物はいませんよ、山野さん。あなたのおっしゃる虚構への違和感があったとしても、それに慣れてしまえば、気にも止めなくなる。まるで雑音の中で過ごしているうちに、あたかもそれが、そよ風のささやきであるかのように。信じてしまえば、嘘も真実となり、心の中に溶け込んでいく。泉谷さんの場合も残念ながら……」  山野はオフィスの壁に埋め込まれた小窓に掛けられたカーテンの向こうにいるはずの部下に顔を向けた。
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