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魔王は焦っていた。
大抵の地図では端に描かれている世界の果て。
魔王の居城の最深部に位置する玉座の間で、今日も魔王は待っていた。
人類に対して侵攻を始め、5年。世界征服の計画は万事滞りなく進んでいた。魔王の配下の魔物達は次々に人間どもを襲い、人間の居住地の約半分は既に魔王の手に落ちている。今日も人々の阿鼻叫喚や惨事の状況が秘書より報告され、誰もが魔王軍の栄光ある未来を疑わなかった。
このペースであれば、後5年。後5年で人間達の世界は全て手に入る、と秘書は言う。にも関わらず、魔王は今日も焦燥し、辟易していた。
勇者が一向にやって来ない。
ほぼ全てが計画通りに進行する中、唯一の誤算がそれだった。
「おい、秘書よ」
魔王は玉座から、今日の報告を終えた秘書に声を掛ける。
「何でしょうか、魔王様」
報告を終え、さっさと立ち去ろうとしていた秘書は振り返って返事をする。秘書はフクロウだかペンギンだかわからないが、3頭身程の丸みを帯びた鳥の魔物なので、その仕草も中々に愛らしく映る。魔王はその可愛らしさに少し癒された。
「あのさ、勇者が中々来ない気がするんだけど」
魔王は秘書に正直な不満を告げる。
「……おぉふ。……そうですね。来ませんね」
しかし秘書は欠伸を噛み殺しながら答えてきたので、さすがに失礼じゃないか、と魔王は思った。
思いはしたが、厳しく当たってしまい万が一にでも辞められてしまえば、愛らしさの欠片も無い魔物が後任の秘書となる可能性も否定できない。魔王は溜飲を下げずに堪えることにした。
ほぼ1日中玉座に鎮座していなければならない魔王にとって、癒しの無い秘書だけは絶対に避けたい。だからこそ、魔王は理解ある上司となり、自らの言動と行動を律する必要があった。
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