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飲みは断れなくとも席だけは遠くに。そう思っていたのに何故か隣同士に座らせられた。
「俺は隅の方でいいですよ」
断って端へ行こうとするが、
「いいから座れ」
と腕をつかまれて、花村は目を細めてその相手を見る。
嫌味なほどにいい男だ。背は自分と同じくらいの高さだが、筋肉を感じさせる肩周り、締まった腰回りと張りなど、ただ細いだけの自分とは違う体つきをしていた。
しかも強引で俺様な部分もあり、素直に座るまで手を離してはくれないだろう。
しぶしぶ腰を下ろすと、
「今回は俺の勝ちだな」
したり顔でそう口にする。
「フン、営業だけだったらね」
「へぇ、営業だけ?」
にやりと口角を上げる男をきつくにらみつけた。
その言葉に含まれた意味。それを知っているのは花村と高坂しかいない。
「あれは、事故だ」
思い出したくないのにあの時のことが頭に浮かび、表情を隠すように手で口元を覆い隠した。
「へぇ、事故ね。その割に善がっていたよな」
強引に連れていかれた店は落ちついた雰囲気でかなり気に入った。しかも出される酒はどれも美味くていつも以上に飲んでしまった。
その結果ベッドの上で朝を迎えることとなったわけだ。何をしていたかも覚えている。
「おい、ここでその話をするな」
「ふぅん。それじゃふたりきりになれる所へ行くぞ」
高坂は立ち上がると腕をつかむ。
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