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「…あ、ウン」
その「声」は、声と呼ぶにはあまりにもか細く、力のないものだった。
一体どうしたら、そんなに小さな声が出るのだろう。
蚊が鳴くよりも小さな、死にかけの蝋燭の火のようなか弱い音が、鼓膜の表面をくすぐっていった。
耳かきの綿の部分で皮膚を撫でられたようなこそばゆさが、そこにはあった。
「人の声」で背筋が凍ったのはこの時が初めてだった。
思わず後ろを振り返った。
見ると、そこには怯えた目をしたカズの姿があった。
どうすることもできず、全身を硬らせている情けない姿が。
カズはケンスケたちに従順だった。
だからカズが、彼らに逆らうことはできなかった。
逆らおうものなら、殴られるか蹴られるか、だったから。
だが、その事情を知らなかった私にとって、この時のカズの怯えた様子は、謎めいたものに違いはなかった。
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