マネキン

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マネキン

今年の春から小学生になる少年は、日曜の午後に家族とショッピングモールに来ていた。 人で賑わう店内のランドセルコーナーをブラブラ歩いていると、両親の姿を見失ってしまう。 お母さんと呼んでも返事が無い。 良い色のランドセルが無いと駄々をこねたせいで、呆れた両親は僕をおいて帰ってしまったのだ。 そう考えた少年は途端に不安になって、びょおびょお泣きながらフロア内を走り回った。 3Fを東から西へ駆け抜け、遂に両親の後ろ姿を発見する。 2人はエレベーターに乗ろうとしているらしい。 扉が閉まるギリギリ、少年は親を求めてエレベーターに飛び乗った。 扉が閉まる。 ゆっくりとエレベーターが上昇していく。 少年は泣きながら母親の手を握ったが、すぐに違和感に気がついた。 冷たくて、固いのだ。 まるでプラスチックのような。 少年は顔を上げる。 エレベーター内に置かれた父母そっくりのマネキンが、上昇する微弱な振動で揺れていた。 着ている服や背丈格好はまるで一緒だが、目や鼻が無く、ぬっペリとした顔の曲線が薄緑の証明に照らされてテラテラと光っている。 チーン… エレベーターが止まり、扉が開く。 少年は逃げ出すようにエレベーターを降りた。 が、すぐに後悔した。 今僕は何階にいるんだろう…。 フロア内はどこもかしこもマネキンだらけだ。買い物客の格好をしたマネキン、レジ前に立つ店員の格好をしたマネキン…。 まるで生活の様子を切り取ったように擬態したマネキンたちが少年を見ている。 人の気配は一切しない。 少年はエレベーターに戻ろうと振り返る。 扉がゆっくり閉まろうとしていた。 中に置かれた両親のマネキンが、少しだけ本物の人間に戻ったような気がした。 手を伸ばすが、今度は間に合わない。 扉を閉めたエレベーターは両親を何処かへ連れて行ってしまう。 以来、扉が開くことはなかった。 静かなフロアに、少年がエレベーターのボタンを押し続ける音が響いている。 アナウンスや話し声のひとつもない静かなフロアでマネキンに囲まれ、カチカチカチカチ… 戻ってこないエレベーターを信じて。
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