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懐かしのゲーム
私は古びたショッピングモールの地下にあるゲームセンターのメダル交換所の受付をしています。
見渡せるほどの広さしかなく、この施設が古くからあるためか、揃えてあるゲーム機の珍しさに度々マニアや、過去を懐かしむ中年〜高齢層の方が来てはゲームをプレイして帰るという、子供のほとんど来ない特殊な状態で経営をしています。
「あのぅ、あそこに故障中のゲーム機があるじゃないですか」
受付でボーっとしていると40代くらいのおじさんが話しかけてきました。
「え?あ、はい」
おじさんが指さす方には、確かに「故障中」と書かれた紙が貼られたゲーム機があります。
「私、どうしてもあのゲームがしたいんです。何とかなりませんか」
また難しいことを言う。
「いやぁ〜、あのゲーム機を直せる業者さんに来ていただいて直してもらうしか出来ないですね〜、ちょっと今すぐにというのは難しいです…」
「私、ここならあのゲームが遊べると聞いてはるばる○○県から来たんですよ」
○○県!そんなに遠い所から来る人も珍しい。
それでも今すぐに直せという無茶を聞くことはできませんでした。
結局おじさんは肩を落として帰っていきました。
後日。
「すんません…あのゲームはいつ頃直りますかね」
お爺さんに話しかけられました。
前の方とは違う人で、さすがに驚きました。
最近になってあのゲームを求めて遠路はるばる来られる方が増えた気がする…。
と言っても私がこの場所の担当を任されたのはほんの最近のことなんですが…。
「すみません、とても古いゲームなので修理会社の人も直すのが難しいそうなんです…ゲーム機本体がもう寿命みたいで…」
お年寄りを前に「寿命」というワードはなかなか言えたもんじゃないが事実なので仕方がない。
「少し前まで○○の場所にもこれと同じゲーム台があったんですがね、とても懐かしくて…楽しく遊べていたのに、何故か急に撤去されてしまって…ほんとこの店にこのゲーム機があると知った時は飛び上がるほど嬉しかったんですよ…」
結局その方にも諦めて帰ってもらう他ありませんでした。なんだか悲しいですが、直る見込みの無いゲーム機を置いていても遊べないんだからしょうがないし、悲しむお客様の顔を連日見続けるのも正直辛かったので、撤去してもらうようモールの上層部に電話をかけに裏に戻りました。
すると、
ピコン!バシ!ピ、ピコン!バシバシ!
遠くから聞き慣れないゲーム音が聞こえてきます。
あれ…?
表に出て見渡すと、おじさんが「故障中」の紙をビリビリに破いてゲームを遊んでいました。
え、あれ動いたの?
正常に動くならそれで良いんですが、一応ゲーム機の状態の説明だけしておこうとおじさんに近づくと、
おじさんはまるで小学生に戻ったように熱中してボタンを連打しています。
ゲーム画面以外見えていないような異常な熱心さで、それはほとんど執着と言っていいと思いました。
「あのぅ…」
ゲームオーバー!
画面にそう表示され、おじさんは私のことに気づいているのかいないのか、百円玉を入れて次のプレイを始めます。
よく見ればその男性は、数日前に○○県から来たと言っていたおじさんではないですか。
指をカタカタ動かしてボタンを押す。
その背中を見ていると、プレイしているおじさんの咳の回数が異様に多くなってきていることに気づきます。
ゴホッ、ゴホゴホ…ゴホッゴホ!ゴホ!
痰の絡むような咳で、おじさんは口から血の混じった唾を吐き出しました。
2回目のゲームオーバー、3回目、4回目…
ゲームオーバーを重ねる毎に咳は酷くなり、
ポロポロと床に落ちるものが増えたので下を見ると、そこにはおじさんの爪や歯が合わせて5〜6本転がっていました。
これはマズイ。
「あの、あの!」
おじさんは呼びかけも無視して次の百円玉を投入します。
「あの!」
私はおじさんの肩を揺さぶり、ゲームをやめさせようと強引に引っ張りました。
その揺れでゲームのプレイが乱れ、
ゲームオーバー!ゲームオーバー!ゲームオーバー!ゲームオーバー!ゲームオーバー!ゲームオーバー!ゲームオーバー!ゲームオーバー!ゲームオーバー!ゲームオーバー!ゲームオーバー!
とうとうおじさんは口から血を吐いて倒れてしまいました。
顔を見ると目は落窪んで頬も痩け、歯はほとんど欠けてしまっていて、最初に見た顔よりもシワが多く老けていて、さっきまで黒かった髪が白髪に染まって胸元まで伸びきっている年老いた容姿に変貌を遂げていたのです。
まるで90歳のお爺さんのような風貌でした。
私は直ぐに救急車を呼び、おじさんは意識が朦朧としている中運ばれていきました。
誰もいなくなった薄暗いゲームセンターで、あのゲーム機のオープニング画面だけが軽快なリズムで音を奏でて主張している。
ブツン…
私はゲームのコードを引き抜き、ゲーム機の撤去をすぐにしてもらうよう電話をかけました。次の犠牲者を出さないために。
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