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4と1/2裏通り
「はぁぁぁ……」
俺は大きなため息をつき、夜の繁華街を歩いていた。
「なんなんだよ、まじで……ふざけんな」
と、たまにぶつぶつ一人言を言いながら歩き続ける。
最近、運気が無いのか何もいい事がない。
会社の営業で、時間をかけて信頼を作ってきた相手先と、もう少しで契約成立というところで、俺は人生で一番と言っていいほどの酷い風邪を引いてしまい、休んでる間に後輩に契約を持っていかれた。
学生の頃から、独学で挑戦している資格試験も今年で8回目。3年くらい前から手応えはあったが、もう少しのところで合格には届かず、今年こそはと自信があった。
しかし、試験日当日事件は起きた。俺はバスで試験会場に向かっていたが、人生で経験することは皆無に近いバスジャックに巻き込まれてしまったのだ。
そして、とどめとなる出来事が数時間前に起きた。
「基山!大変だ!お前のマンションが火事だ!」
普段通り営業回りをしていると会社の上司から電話がかかってきた。
営業先から、自宅へと直行する。マンションの前には消防自動車や救急車、パトカーが所狭しと並んでおり騒然としていた。
規制線が張られ、野次馬の中をかいくぐりその先頭まで来ると、消防の放水は始まっており切羽詰まった現場と化していた。
あろうことか、出火場所は俺の部屋の真上だった。
「ピアノが……」
趣味で弾いているピアノだが、俺の心の拠り所と言っても過言ではない。
自慢ではないが、俺はピアノの才能がある。子供の頃は、ピアノ教室に通いコンクールでも数々の賞を貰った。将来はピアニストとまで期待されていたが……
高校生になったある日、俺はこのままピアノを弾き続けるとピアノが嫌いになってしまう。嫌いになってしまう前にピアノから距離を置こうと思い、その日を最後にピアノを趣味にした。
周りの大人はひどく残念がっていたが、そんなことはどうでもよかった。ピアノだけは嫌いになりたくなかった……。
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