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消防隊員の働きにより火は消し止められたが、火元となった部屋の真下に位置する俺の部屋は水浸し。生活できるような状態ではなく、大切にしていたグランドピアノも悲しい姿になっていた。
これから、何をどうしたらいいのか……。途方に暮れながらとりあえず会社に戻り、数日休暇を貰った。
最近の、我が身に起こった出来事を振り返りながら歩いていると、いつの間にか繁華街は遠くの光となっていて辺りは暗くなっていた。振り返って見た光を背にして再び歩き出す。
すると、急に吸い込まれるような感覚で横から風が吹いてきた。
風が通っていった道を見てみると、そこには、室外機や換気口が道を塞ぐように出ており、使われていないであろう錆びた自転車が置いてあった。
まず人は通ることがないだろうと思われる狭い裏通り。その裏通りを俺は進んで行った。
室外機に当たり、空き缶を蹴飛ばし、転がっている石に躓きながらようやく開けた道の先には、ぼんやりと明かりを灯した小さなBARがあった。
「こんなところに飲み屋が……」
上がった息を静めて、BARの前に立つ。扉の横に置かれたネオンには
『 BAR 嘘八百』
という文字が光っていた。
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