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2 運なんてなかった
ルーシー・ラザフォードが8歳の時。
ようやく彼女の願いの1つが叶った。
それは第2王子に会うこと。
ずっとずっと憧れていた王子様。
特に第2王子とは自分と同い年であり、婚約の可能性も公爵家の彼女には十分にあった。
私は公爵である父に何度もお願いし、ようやく会わしてもらうことができたのである。
可愛い娘の願いだから聞いてもらえることができたのだろう。
そして、私はお父様と一緒に王城へ。
部屋に案内されるなり、彼がやってきた。
第2王子ライアンはあまりにも美しく、誰もが一目惚れしてしまうぐらいに美形であった。
数か月後、どうのこうのあって、私は第2王子と婚約することに。
婚約で舞い上がった私は何度も何度も王子に会いに行った。
そして、ずっーと付きまとい、私は王子を拘束していた。
好きでもないやつにそんなことをされたら、嫌に決まっている。
想像力に掛ける私はそんなことは考えることはなかった。
ある日、私はいつものようにライアン王子に付きまとい、2人で散歩をしていた。
「殿下、今日はいつも以上に静かですね。お元気がないのですか――――――」
そう声を掛けると、王子はぴたりと足を止める。
私も立ち止まり、彼の顔を覗いた。
そこにあったのはいらだった王子の顔。
そして、彼と目が合った。
「あ――――――――――――」
その瞬間、私の脳内に電撃が走る。
「あ、ああ―――――」
殿下のこちらに向ける瞳。それはそれは冷たいものだった。
そして、全てを思い出した。
★★★★★★★★
その時、思い出したのは前世での記憶。
それはろくなものではなかった。
前世での名前は夜久月魅。
夜久月魅はとことん男運がなかった。
付き合う相手はダメ男ばかり。
別れる原因はいつだって彼氏の浮気だった。
別れるのが10回目になると、友人には『あんたダメ男ばっかり捕まえているじゃない』とバカにされる始末。
だけど、私は諦めなかった。
次こそはと、出会いがあれば付き合い始める。
が、結局ダメ男。
このままじゃ、まともな人との結婚が無理だと思うようになっていた。
いっそのこと一生1人身でもいいかなとも考え始めていた。
そんな時、彼が現れた。
25歳になって間もないころだったと思う。
仕事帰りに私は何を思ったのかゲーセンに1人で寄った。
その時の私はとにかく踊りたかったのだと思う。
素人ながらにダンスゲームをしていたのだけれど、そこに彼が現れた。
彼も仕事帰りだったようで、スーツ姿で踊っていた。
そして、何度も会うようになり、付き合い始めた。
彼とは何より価値観が合うし、デートしても楽しい。顔もスタイルもよく、私にとっては良物件だった。
そうして、彼と付き合い始めて半年が経つと、同棲をしようと話になった。
今まで同棲なんて話は出たことがなかった。そんな話になる前に浮気が発覚し、別れるからだ。
休みと聞いていたので、彼の家に行こうとした時。
彼が他の女といちゃついているのを見つけてしまった。
最初は後輩の子かもしれないと観察していたが、外見からどう見ても違うと判断。
あんなけばけばしい子が後輩なんて思えない。
私は背後から2人にゆっくりと近づき、声を掛ける。
「ねぇ、その子誰?」
「月魅、なんでここに………………」
突然現れた私に動揺する彼。
「ねぇ、その子誰だって聞いているの」
「このおばさんだれぇ~」
私の彼氏にくっついていた女がそう言ってきた。
は?
私がおばさん?
あんたの方がおばさんに見えるだけど。
「ねぇ、その女誰だって言ってるの」
しかし、彼は何も答えてくれず。
そして、私に背を向け。
「どこの人か知らないけれど、きっと人違いだから。だから、早くどっか行ってくれないか?」
と言ってきた。
どこの人か知らないですって?
ふざけないでよ。
昨日会ったじゃない。
「気色悪いんだよ、おばさん」
と彼は付け加え、私を睨む。
冷たい視線。
人生の中で一番鋭く刺さる視線を向けられた。
え?
同棲の話もしたよね?
どこに住みたいか話し合ったじゃない。
なんで、なんで、なんで――――――――――――。
「な゛んでよ!?」
私は2人に飛びかかる。
そこから始まったのは取っ組み合い。
女の髪をひっぱり、彼を平手打ち。
痛みのあまり女は奇声を放つ。
そのせいかは知らない。
周囲の人たちが騒ぎ始めたが、そんなの気にしていられなかった。
私と一緒になってくれるって言ったじゃない!
「放してくれっ!」
彼はそう言って、私を突き飛ばす。
私は橋の手すりに寄りかかろうとするも、その手すりはガタッと音を鳴らし、そして、壊れた。
――――――――――――手すりが壊れた? あれ?
私の体は川の方へ投げ出される。
男運だけじゃない。
そもそも私には運なんてなかったのだ。
そして、私は川に頭から落ちて死んだ。
★★★★★★★★
――――――――――――というのが前の人生の終わり。
そう。
途中退場みたいな終わり方、最悪な最期だった。
前世の私、なんてみじめなの。
口をポカーンと開けたまま、私はフリーズ。驚きのあまりにいつの間にか座り込んでいた。
王子はまだこちらにあの鋭い瞳を向けていた。
私、死ぬ前にこんな瞳を向けられたんだ。
「あぁ……………………」
弱々しい声が自分の口から漏れ、硬直してしまう。
私は、私は、転生したのね。
このルーシー・ラザフォードという少女に。
ルーシー・ラザフォードって…………名前を聞いたことがあると思ったら、あの乙女ゲームの悪役令嬢じゃない。
国外追放か、死ぬかの2択しかない悪役令嬢じゃない。
いつかプレイした乙女ゲーム「Twin Flame」
一番と言っていいほど、ドハマりしたゲームだった。
私はゆっくりと立ち上がる。そして、両手を広げた。
もはや、私の頭はパンク。キャパオーバーだった。
「アハハ!」
そして、狂ったように笑い始めていた。
王子は目を見開き、私を鎮めようと何か話しかけていた。
悪役令嬢の私は死ぬんだわ!
また、私は死ぬんだわ!
「アハハ!」
そうして、興奮のあまりハイになった私は意識を失い、パタリと倒れた。
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