2 運なんてなかった

1/1
前へ
/88ページ
次へ

2 運なんてなかった

 ルーシー・ラザフォードが8歳の時。  ようやく彼女の願いの1つが叶った。  それは第2王子に会うこと。    ずっとずっと憧れていた王子様。  特に第2王子とは自分と同い年であり、婚約の可能性も公爵家の彼女には十分にあった。  私は公爵である父に何度もお願いし、ようやく会わしてもらうことができたのである。  可愛い娘の願いだから聞いてもらえることができたのだろう。    そして、私はお父様と一緒に王城へ。  部屋に案内されるなり、彼がやってきた。    第2王子ライアンはあまりにも美しく、誰もが一目惚れしてしまうぐらいに美形であった。    数か月後、どうのこうのあって、私は第2王子と婚約することに。    婚約で舞い上がった私は何度も何度も王子に会いに行った。  そして、ずっーと付きまとい、私は王子を拘束していた。  好きでもないやつにそんなことをされたら、嫌に決まっている。  想像力に掛ける私はそんなことは考えることはなかった。  ある日、私はいつものようにライアン王子に付きまとい、2人で散歩をしていた。  「殿下、今日はいつも以上に静かですね。お元気がないのですか――――――」  そう声を掛けると、王子はぴたりと足を止める。  私も立ち止まり、彼の顔を覗いた。  そこにあったのはいらだった王子の顔。  そして、彼と目が合った。  「あ――――――――――――」  その瞬間、私の脳内に電撃が走る。  「あ、ああ―――――」  殿下のこちらに向ける瞳。それはそれは冷たいものだった。  そして、全てを思い出した。    ★★★★★★★★    その時、思い出したのは前世での記憶。  それはろくなものではなかった。  前世での名前は夜久(やく)月魅(つきみ)。    夜久月魅はとことん男運がなかった。  付き合う相手はダメ男ばかり。  別れる原因はいつだって彼氏の浮気だった。    別れるのが10回目になると、友人には『あんたダメ男ばっかり捕まえているじゃない』とバカにされる始末。    だけど、私は諦めなかった。  次こそはと、出会いがあれば付き合い始める。  が、結局ダメ男。  このままじゃ、まともな人との結婚が無理だと思うようになっていた。  いっそのこと一生1人身でもいいかなとも考え始めていた。    そんな時、彼が現れた。   25歳になって間もないころだったと思う。  仕事帰りに私は何を思ったのかゲーセンに1人で寄った。    その時の私はとにかく踊りたかったのだと思う。  素人ながらにダンスゲームをしていたのだけれど、そこに彼が現れた。  彼も仕事帰りだったようで、スーツ姿で踊っていた。    そして、何度も会うようになり、付き合い始めた。    彼とは何より価値観が合うし、デートしても楽しい。顔もスタイルもよく、私にとっては良物件だった。  そうして、彼と付き合い始めて半年が経つと、同棲をしようと話になった。  今まで同棲なんて話は出たことがなかった。そんな話になる前に浮気が発覚し、別れるからだ。  休みと聞いていたので、彼の家に行こうとした時。    彼が他の女といちゃついているのを見つけてしまった。  最初は後輩の子かもしれないと観察していたが、外見からどう見ても違うと判断。  あんなけばけばしい子が後輩なんて思えない。  私は背後から2人にゆっくりと近づき、声を掛ける。  「ねぇ、その子誰?」  「月魅、なんでここに………………」    突然現れた私に動揺する彼。  「ねぇ、その子誰だって聞いているの」  「このおばさんだれぇ~」  私の彼氏にくっついていた女がそう言ってきた。  は?  私がおばさん?  あんたの方がおばさんに見えるだけど。  「ねぇ、その女誰だって言ってるの」  しかし、彼は何も答えてくれず。  そして、私に背を向け。    「どこの人か知らないけれど、きっと人違いだから。だから、早くどっか行ってくれないか?」  と言ってきた。  どこの人か知らないですって?  ふざけないでよ。  昨日会ったじゃない。   「気色悪いんだよ、おばさん」  と彼は付け加え、私を睨む。  冷たい視線。  人生の中で一番鋭く刺さる視線を向けられた。  え?  同棲の話もしたよね?  どこに住みたいか話し合ったじゃない。  なんで、なんで、なんで――――――――――――。  「な゛んでよ!?」  私は2人に飛びかかる。  そこから始まったのは取っ組み合い。  女の髪をひっぱり、彼を平手打ち。  痛みのあまり女は奇声を放つ。  そのせいかは知らない。  周囲の人たちが騒ぎ始めたが、そんなの気にしていられなかった。  私と一緒になってくれるって言ったじゃない!  「放してくれっ!」    彼はそう言って、私を突き飛ばす。  私は橋の手すりに寄りかかろうとするも、その手すりはガタッと音を鳴らし、そして、壊れた。  ――――――――――――手すりが壊れた? あれ?  私の体は川の方へ投げ出される。    男運だけじゃない。  そもそも私には運なんてなかったのだ。  そして、私は川に頭から落ちて死んだ。  ★★★★★★★★  ――――――――――――というのが前の人生の終わり。  そう。  途中退場みたいな終わり方、最悪な最期だった。  前世の私、なんてみじめなの。  口をポカーンと開けたまま、私はフリーズ。驚きのあまりにいつの間にか座り込んでいた。  王子はまだこちらにあの鋭い瞳を向けていた。  私、死ぬ前にこんな瞳を向けられたんだ。    「あぁ……………………」  弱々しい声が自分の口から漏れ、硬直してしまう。  私は、私は、転生したのね。  このルーシー・ラザフォードという少女に。  ルーシー・ラザフォードって…………名前を聞いたことがあると思ったら、あの乙女ゲームの悪役令嬢じゃない。  国外追放か、死ぬかの2択しかない悪役令嬢じゃない。  いつかプレイした乙女ゲーム「Twin Flame」  一番と言っていいほど、ドハマりしたゲームだった。  私はゆっくりと立ち上がる。そして、両手を広げた。  もはや、私の頭はパンク。キャパオーバーだった。  「アハハ!」  そして、狂ったように笑い始めていた。  王子は目を見開き、私を鎮めようと何か話しかけていた。  悪役令嬢の私は死ぬんだわ!  また、私は死ぬんだわ!  「アハハ!」  そうして、興奮のあまりハイになった私は意識を失い、パタリと倒れた。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

103人が本棚に入れています
本棚に追加